いぇ~い、こういうアントニオ・サンチェスが聴きたかった!
リーダー作では、エレクトロニカを取り入れたり、
長尺の組曲に取り組むなどの野心作が続いていましたけれど、
新ユニットのアルバムでは、たっぷりとアントニオ印のドラミングが聞くことができます。
フィルをいっぱい入れて、タムも盛大に叩いているのに、
ぜんぜんうるさくならないアントニオのドラミング。
メロディックなばかりか、コード感まで表現して、
曲の色彩感を大きく動かしていくドラミングは、まさにアントニオ印。
スネアを細かく叩いて、ロールのように持続音を出したり、
クローズド・リム・ショットの置き方など、これぞアントニオというプレイを堪能できます。
アンサンブルをリードしたり、バックに回って装飾音を付けたり、
その緩急自在の展開とともに、ドラミング自体の重量感にも、
ただただ聴き惚れてしまいますね。
そのドラム・サウンドを聴いているだけで、多幸感に満ち溢れてしまいます。
いけない、いけない。アントニオの話ばっかりしてしまいましたけれど、
トリオ・グランデは、イギリス出身のサックス/キーボード奏者ウィル・ヴィンソンと、
イスラエル出身のギタリスト、ギラッド・ヘクセルマンに、
メキシコ出身のドラマー、アントニオ・サンチェスが出会って誕生したスーパー・トリオ。
ニュー・ヨークで活躍する精鋭3人が集まった本作は、
3人が個性に富んだオリジナル曲を持ち寄って、演奏をしています。
ギラッド・ヘクセルマンのギターも実に個性的で、
随所でユニークなサウンドを聞かせています。
ヘクセルマン作のポリリズミカルな‘Elli Yeled Tov’ では、
ギターとドラムスがリズミカルなラインをループさせ、
サックスがメロディをループの合間をぬって、
ひらひらと舞ったり、一緒にループの中に交わったりしています。
アグレッシヴに攻めたトラックあり、バラードありと、
マテリアルはさまざまですけれど、3人が自由度の高いプレイをしながら、
バランスのとれたハーモニーを生み出していて、
このトリオだからこそなし得たハイ・レヴェルなサウンドを聴くことができます。
Trio Grande "TRIO GRANDE" Whirlwind Recordings WR4767 (2020)