ポール・デスモンドの流し聴きの合間に、
ふと思い立って棚から取り出した、グティ・カルデナス。
メキシコ・ポピュラー音楽の開祖と呼ぶにふさわしい、
伝説的なギター弾き語りの自作自演歌手ですけれど、
十数年ぶりに聴き返してみたら、ハマっちゃいました。
グティ・カルデナスは、ユカタン半島出身のトロバドール。
18歳でメキシコ市に進出して、故郷のユカタン半島の抒情歌謡、
カンシオーン・ユカテカを広めました。
32年、わずか27歳の若さで亡くなってしまうんですが、
アメリカ西海岸で制作された映画にも俳優として出演した大スターです。
グティはカンシオーン・ユカテカばかりでなく、
ユカタンに流入していたアバネーラ、ダンソーン、クラーベなどの
キューバ音楽の影響を受けてボレーロもたくさん歌い、
ボレーロ・メヒカーノ(メキシカン・ボレーロ)の父とも呼ばれるようになりました。
さほどメキシコ歌謡に熱心でなかったぼくが、
グティ・カルデナスをすぐに好きになったのも、
そんなキューバ音楽との親和性の強さがあったからでしょうね。
グティのロマンティックな作風は、メキシコの大衆に愛され、
のちのトリオ・ロス・パンチョス、ロス・トレス・ディアマンテスが歌う、
大スタンダード曲となりますが、やっぱりぼくはグティ自身が歌った
SP録音時代の典雅な雰囲気が忘れられません。
それは、父のレコードに胸を射抜かれていた、
2・3歳の頃の記憶を呼び覚まされるからでしょう。
グティ・カルデナスの原曲を聴いたのは、ハタチすぎてからなので、
当時耳にしていたわけじゃないんですけれども。
実は、ぼくの初コンサート体験は、メキシコ歌謡なんですよ。
わずか1歳、場所は厚生年金会館ホール、
父の膝の上で聴いたトリオ・ロス・パンチョス。
もちろん記憶なんて、なんにも残っていません。
でもその体験が、身体なのか、脳ミソなのか、どこだかわかりませんが、
自分のどこかに種をまいたのは、間違いないですね。
とくに子煩悩でもなかった父が、わずか1歳のぼくを、
なぜわざわざコンサートへ連れていこうと思い立ったのか。
そんな幼子を夜に連れ出すなんて、昭和30年代当時を考えれば
トンデモなんだけど、世間体などおかまいなしの父親らしくもあるか。
グティを聴きながら、そんなことを考えていたら、
無性に父と話したくなった正月休みでした。
Guty Cárdenas "LA VOZ Y GUITARRA DE GUTY CÁRDENAS - EL RUISENOR YUCATECO" Alma Criolla ACCD801
Guty Cárdenas "LA GRAN COLLECCION 60 ANIVERSARIO" Sony BMG Music 886970865524