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妻が送ったサプライズ・プレゼント ジェーン・ホール

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Jane Hall, Ed Bickert  WITH A SONG IN MY HEART.jpg

うわぁ、これ、日本盤で出したのか!

5年前にこのCDが出た時は、なんとも好事家向けというか、
極め付きの趣味趣味アルバムだなあと思ったもんですけれど、
すでにコレクターズ・アイテム化していたらしく、入手不可能になっていたんですね。
こういうアルバムって、ちょっとほかに見当たらないし、
なんとも味のある内容なので、日本盤が出たのなら、ちょっと書いておこうかな。

ジム・ホールの妻、ジェーン・ホールが、ジムの55歳の誕生日のために、
こっそりとレコーディングして、プレゼントしたという作品なんですね、これが。
もとはカセットに録音されたもので、
家族だけが聴いていた、プライヴェート作品だったのです。
ジムの死後に、カセットの存在を知ったプロデューサーの
ブライアン・カメリオが、17年にCD化したのでした。

録音された85年は、ジェーンとジムが結婚して、ちょうど20年を迎えた年。
ジェーンはジムに内緒でこのサプライズ企画を思い立ち、
カナダの名ギタリスト、エド・ビッカートに伴奏を頼んで、
わずか1日のセッションで12曲を録り終えたのだそうです。

な~んて、美しい話なんでしょうか。
妻からこんなに想われるなんて、う・ら・や・ま、としか言いようがないですが、
ジムって、きっと家庭人としても、素晴らしい夫だったんでしょうねえ。

歌っているのは、超有名なスタンダード・ナンバーばかり。
ジェーンは、家ではジム・ホールのギターを伴奏によく歌っていたといいますが、
はっきりいって、歌手としての力量は、アマチュアを超えるものではありません。
音程すらおぼつかなくなる箇所もあったりするんですが、
そのシロウトぽい歌が、ぜんぜんマイナスに聞こえないんですよ。

愛する夫のために歌うという、シンプルでピュアな気持ちが、
これほどストレイトに伝わってくる歌はありません。
ラヴ・ソングとは、かくありきなんじゃないでしょうか。
どんなに歌唱力があっても、どんな技巧をもってしても、
これほど心のこもったラヴ・ソングにかなうものはありません。

かたわらに寄り添って、語りかけるように静かに歌うジェーンの歌いぶりに、
心を動かされない人はいないでしょう。
あまたのジャズ・ヴォーカリストたちによって、技巧を凝らされ続けてきた
スタンダード・ナンバーを、歌の原点に立ち戻らせたのは、
シロウトだからこそできたようにも思えてきますね。

歌い口の親密さと可憐な歌声、そしてどことなくはかなさを感じさせる歌は
バーバラ・リー、テディ・キング、ビヴァリー・ケニーといった、
往年の好事家が喜びそうな歌手ばかりが、なぜか思い浮かびます。
そんな第一印象から、極め付きの趣味趣味アルバムと感じたものの、
聴けば聴くほどに、従来のジャズ・ヴォーカルからは得られない
感慨が増していく、不思議な感触を残すアルバムでした。

二つ折りのペイパー・スリーヴは、まるでバースデイ・カードのようで、
鉛筆の書き味を残したレタリングも、手作り感がイッパイ。
なんとジュリアン・ラージが、絶賛コメントを寄せています。
これは、フィジカルで持っていたい1枚ですよね。
日本盤は見ていませんが、このハンドメイドの感触を、きちんと再現できたのかな。

Jane Hall, Ed Bickert "WITH A SONG IN MY HEART" ArtistShare AS0148

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