第二次世界大戦前後のフィリピンで流行したクンディマン。
インドネシアのダンドゥットやタイのルークトゥンを聴き始めの頃に、
フィリピンにもなにか面白いポップスはないかと探して、出会った音楽でしたけど、
民俗的な味わいのほとんどない、ローマ・カトリック教会系のお行儀の良さは、
ぼくの求めるものではありませんでした。
19世紀スペイン統治時代の残り香を伝えるフィリピンの音楽には、
マンドリン・アンサンブルの伝統もありますが、
南米のエストゥンディアンティーナやショーロみたいなのを期待したらガッカリで、
大学のマンドリン・クラブみたいなもの。
大衆音楽にしては、フィリピンのポップスはハイ・カルチャーな匂いが強すぎます。
というわけで、「クンディマンの女王」と呼ばれるシルヴィア・ラ・トーレも、
クラシックふうな発声が、ちょっとハナにつく歌手と思っていたんですけれど、
この編集盤にはびっくりさせられました。スローなラヴ・ソングのクンディマンではなくて、
全編アメリカン・ポップス影響大の60年代ポップスが詰まっているんです。
クンディマンを歌う時とは唱法もがらりと変えて、おきゃんな(死語?)雰囲気をまき散らす、
ざっくばらんとした気取りのない庶民的な歌いっぷりを聞かせます。
やけっぱちに叫ぶ曲(“Laba-Laba-Laba”)までありますよ。
この時代らしいコミカルな歌謡性に富んだ曲は粒揃いで、
ロックンロールあり、カリプソあり、チャチャチャありと、楽しいことこの上なし。
バックも一流のオーケストラが務めているようで、演奏・アレンジともにスキがありません。
マンドリン・ソロがフィーチャーされるところは、フィリピンらしいところでしょうか。
マレイシアのサローマが活躍していたのと同時代に、
フィリピンにはシルヴィア・ラ・トーレがいたと、すっかり見直してしまった好編集盤です。
Sylvia La Torre "CLASSIC NOVELTIES" Synergy Music Corporation CD2189