ギタリストより、アフリカン・ポップスのライターとして知られるバンニング・エアは、
00年にマリのギタリストにスポットをあてた音楽書とコンピレーションCD
“IN GRIOT TIME : AN AMERICAN GUITARIST IN MALI” で有名になった人。
つい最近も、15年にジンバブウェのトーマス・マプフーモの評伝
“LION SONGS : THOMAS MAPFUMO AND THE MUSIC THAT MADE ZIMBABWE” と
編集CDが一緒に出されたのが記憶に新しいですね。
そのバンニング・エアがスターンズから出したアルバムは、
05年に31歳の若さで夭逝した、マリのカマレ・ンゴニ奏者の復刻作。
ヴィユー・カンテというカマレ・ンゴニ奏者の名前は初耳と思ったら、
それもそのはず、生前に商業録音を残さず、
死の直前に制作した本作が、ゆいいつのアルバムといいます。
そんな知られざる人の録音をわざわざ復刻するんだから、
これは何かあるんだろうと思ったら、聴いてナットク。
カマレ・ンゴニという楽器の可能性を拡げた、びっくりサウンドを聞かせてくれます。
ヴィユー・カンテは、ペンタトニックにチューニングされている6弦のカマレ・ンゴニに、
弦を2本足して7音音階を演奏できるようにし、さらに10弦、12弦へと改造したそうです。
さらにハーモニクスやスライドを多用するなど奏法においても、
従来にないテクニックを編み出し、カマレ・ンゴニを革新した才人だったんですね、この人。
わずか31歳で亡くなってしまったなんて、残念すぎます。
ンゴニのアンサンブルで伝統を革新したバセク・クヤテと出会ったら、
きっと通じ合うものがあったはずだし、さらに世界進出の可能性だってあっただろうになあ。
アクロバティックな演奏には、音楽的野心に燃えた若々しい才能が溢れ出ていて、
素朴ながら力強く伸びのある歌声も、胸をすきます。
レイル・バンドの歌手セク・カンテの弟カバジャン・ジャキテをフィーチャーした曲もあり、
伝統から力強くハミ出そうとする強い意志が、音楽をみずみずしく輝かせています。
アフリカの現地に埋もれたままの、もしくは忘れ去れるだけの、
こうした才能を発見することこそ、非アフリカ人の役目だと思うんですよ。
くだらんアフロ・ディスコのレコードを復刻なんかしたって、なんの役にもたちゃしません。
知られざる才能がこうしてCD化されることで、世界に知られること以上に、
ヴィユーが取り組もうとしていた音楽的挑戦を、次世代のマリ人に引き継ぐことができます。
カセット音源でもマスタリングをきちんとすれば、こんなにいい音質になるのかと、驚きのクオリティ。
こういう地味な作品をライセンスしてリリースするところは、さすが老舗のスターンズ、
アフリカン・ポップスを世界に紹介するレコード会社の良心を感じさせます。
Vieux Kanté "THE YOUNG MAN’S HARP" Stern’s STCD1127
[Book] Banning Eyre "IN GRIOT TIME : AN AMERICAN GUITARIST IN MALI" Temple University Press (2000)
[Book] Banning Eyre "LION SONGS : THOMAS MAPFUMO AND THE MUSIC THAT MADE ZIMBABWE" Duke University Press Books (2015)