エル・スールの原田さんから、無断リンクならぬ
記事アップを要求されてしまった、タン・ニャンの新作。
http://elsurrecords.com/2016/08/23/tan-nhan-thuong/
彼女の13年作“YẾM ĐÀO XUỐNG PHỐ” を、
ヴェトナム版「ドラゴンフライ」とあちこちで持ち上げた手前、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-03-18
タン・ニャンについて書くのはやぶさかではないので、喜んでお引き受けしますよ。
というわけで、首を長くして待ってたタン・ニャンの新作。
去年の作なんですけど、なかなか手に入らなくってねえ。
ヴェトナム盤は現地買付しか入荷ルートがないのだから、如何ともしがたく、
ワールド・ミュージック関係のディストリビューター皆々様方の無関心ぶりは、
遺憾を通り越して、ほんとに情けない思いがしますよ。
かつてオフィス・サンビーニャの田中勝則社長(当時)が、
旅先のシンガポールでシティ・ヌールハリザの“CINDAI” を聴いて衝撃を受け、
すぐさま販売元のスリア・レコードに連絡を取って、ライセンス契約を結んだことを思い出します。
ライスが『チンダイ』を日本盤として発売しなければ、
マレイシアの新しい伝統歌謡が、日本へ紹介されることはなかったでしょう。
それを思うと、これほどヴェトナムの音楽シーンが沸騰しているのに、誰も手を出さないのだから、
1枚のCDとの出会いに直感の働く才覚ある人物は、いまや皆無ってことだよね(タメ息)。
いつまでも欧米経由の配給ばかりに頼っていないで、
ヴェトナムのヴェッタン・スタジオやタン・ロンとライセンスしようっていう、
根性のある会社は出てこないもんですかねえ。
CDが売れないだの、マーケットが小さいだのと、愚痴ばかり並べるのは嘆かわしいですよ。
話題を元に戻して、タン・ニャン。やっぱすごいわ、この人。
伝統系歌手の中では、この人は抜きんでた実力の持ち主ですね。
アルバム冒頭の歌い出しから、空気を切り裂くようなシャープな歌声にノックアウト。
これだけシャープな声なのに、キンキンせず、節回しはむしろしなやかで柔らかさを感じさせます。
以前はタン・ニャンの歌唱力が強力すぎて、
もっと力を抜いて歌った方がと思っていたこともありましたけれど、
よくよく聴けば、この歌唱に余計な力は入ってないんですね。
声の押し出しが、ものすごくダイナミックなのだけれども、
抑揚の強弱からこぶし使いに至るまで、絶妙にコントロールされていて、
豪胆にして繊細という、相矛盾した側面を合わせ持つ歌唱に、圧倒されるばかりです。
これをトゥー・マッチと感じる人もいるでしょうけれど、
それでもタン・ニャンの高い技量は認めるはず。
ザンカー(民歌)をここまでテクニカルに完成させたスタイルで歌えるのは、
数多いザンカー歌手の中でも、タン・ニャンただ一人じゃないでしょうか。
大衆的な味わいを求めるムキには合わないシンガーですが、
この抜きん出た才能は、無視するわけにいかないでしょう。
Tân Nhàn "THƯƠNG" Thăng Long no number (2015)