カメルーンって、面白い才能を生み出す国だなあ。
ヤウンデ生まれのブリック・バッシーは、繊細な感性をうかがわせる、
モダン・フォーキーな歌を歌うシンガー・ソングライター。
ブリックが弾くギターに、チェロ兼バンジョーとトロンボーンの白人演奏家二人による
ユニークなトリオ編成。曲によってはサンプルやハーモニカも加わり、
品のいい室内楽ふうの演奏にのせ、ひ弱な歌い口で、とぼけた味の歌を聞かせます。
ノー・フォーマット!というレーベルらしい、いかにもヨーロッパ人好みの音楽といえますけれど、
ひ弱そうな音楽の根底に、おおらかなアフリカ性が横たわっているのが伝わってくるので、
アフリカン・ポップス・ファンにも十分アピールするものを持っている人です。
といっても、記号化されたアフリカン・サウンドはいっさい登場しないので、
リシャール・ボナにアフリカ性を感じ取ることのできるファン向けといえるかな。
じっさいブリックは、リシャール・ボナのセンシティヴさと共通する資質を感じさせますね。
ブリックは21人兄弟という大家族に生まれ、両親が建てた教会の合唱隊で5歳の時から歌い、
17歳の時に初めての自分のバンド、ザ・ジャズ・クルーを結成しています。
のちにマカズと改名するこのジャズ・フュージョン・グループで10年近く活動したのち、
パリに渡ってソロ活動を始め、05年にデビュー作を出して以降、本作が3作目とのこと。
面白いのが、デルタ・ブルースのスキップ・ジェイムズにインスパイアされて、
本作を制作したというエピソード。なんでまた、スキップ・ジェイムズ???
直接スキップ・ジェイムズの影響を感じさせる部分はありませんけれど、
ファルセットなどを交えながら、繊細な陰りを持つスキップ・ジェイムズの特異な音楽性に、
ブリックが共感したのも、わかるような、わからないような。
子供の頃の情景とダブるものを、スキップ・ジェイムズのブルースに感じているんだそうです。
ほかに影響を受けたミュージシャンに、ニーナ・シモン、マーヴィン・ゲイ、ビートルズに並んで、
カメルーンのギター弾きでマコッサを歌った第一人者のエボア・ロタンや、
アシコの王様ジャン・ビココ・アラディンを挙げているところは、やはりカメルーンの人ですね。
ちなみにブリックは、ジャン・ビココ・アラディンと同じバサ人で、
このアルバムでも全曲バサ語で歌っています。
母語で歌うことにこだわるのも、リシャール・ボナと共通していますね(ボナはドゥアラ語)。
Apple のiPhone 6 のCM で、ぼくもこのアルバムの存在を知ったクチですが、
わずか30分足らずの作品とはいえ、クオリティの高さに驚かされました。
朗らかな音楽の表情とユーモアあふれるステキな作品です。
Blick Bassy "AKÖ" No Format! NOF28 (2015)