裸電球が照らす、ペンキのはげ落ちた壁。
バイリ(ダンス・パーティ)がはねたあとなのか、
誰もいなくなり、虫の音しか聞こえない夜更けに、
ラベッカを弾く男がひとりと、外で踊る女がひとり。
たまんないなぁ、この写真。
場所はペルナンブーコの田舎町の集会場でしょうか。
屋根の瓦の下に、どでかいスピーカーが付いていて、
この前に大勢の人々が集まって、踊っていたんでしょうねえ。
ノルデスチのヴァイオリン、ラベッカ奏者マシエル・サルーの新作です。
6年前の前作は、ホーン・セクションや女性コーラスまでフィーチャーして、
華やかにしすぎたサウンドに、ちょっと違和感を感じて手放しちゃいました。
ロック・ファンには、ラベッカがぎこぎこ鳴って、
太鼓がどんどん叩かれるノルデスチの伝統色濃いダンス・サウンドより、
「いなたいマンギ・ビート」ぐらいのサウンドの方が、ウケがいいんだろうけど。
で、今作はどんなものかと心配したんですが、
ジャケットどおり、シブい伝統回帰のアルバムとなりました。
ノルデスチ音楽好きには、こういう土埃舞うサウンドの方が、断然いいですよね。
朴訥としたマシエル・サルーの歌い口もちょっと渋くて、いい感じ。
デビュー作や2作目で聞かれた、
マラカトゥやコーコをベースとしたノルデスチのフォークロアを、
ロックを通過した世代のセンスでやるサウンドには、
マシエルの父親であるメストリ・サルスチアーノ世代の
オーセンティックな伝統サウンドとは明らかに違うグルーヴ感がありました。
楽器編成の面でも、せいぜいエレクトリック・ギターやベースを数曲使う程度。
ほぼ伝統的なサウンドなのに、メストリ・サルスチアーノのアルバムと
聴き比べてみると、その感覚の差は歴然です。
世代が変わり、伝統が時代とともに移ろっていく姿が聴き取れますよね。
古い世代には重厚さが、新しい世代には軽妙な身のこなしがあって、
新旧世代それぞれの味わいが味わえます。
Maciel Salú "BAILE DE RABECA" Maciel Salú MS0004 (2016)
Maciel Salú e O Terno Do Terreiro "A PISADA É ASSIM" Marca Registrada MR0983 (2004)
Maciel Salú e O Terno Do Terreiro "NA LUZ DO CARBURETO" Chesf no number (2006)
Mestre Salustiano "SONHO DA RABECA" Cristiano Lins Produções TOP015 (1998)