エチオピア経済の急成長にともなって、
エチオピアン・ポップスの舞台が、国外の移民コミュニティから、
完全に現地に返り咲いたのを実感するここ数年。
そんな数年来の好調を結実した最高作が、ついに登場しましたよ。
今年のエチオピアン・ポップスのベスト作であることはもちろんのこと、
ここ数年で考えたって、これほどの傑作はなかったでしょう。すごいぞ、これ。
エリザベス・テショムという女性歌手、若そうに見えますが、
確か90年代半ばからカセットを出している人。
寡作な歌手で、CDはぼくも初めて見ました。
表紙に“VOL-1” とありますが、もしかしてこれが初CDでしょうかね。
もうひとつ、表紙に“OLDIES” と書かれているんですが、
なんと本作、往年の名歌手ベズネシュ・ベケレのカヴァー・アルバムなんです!
うひゃー!と、ここで驚いてくれなきゃ、エチオピア音楽ファンとはいえません。
アスター・アウェケに始まり、エチオピアの女性歌手たちが
こぞって模範とした、伝説の歌手であります。
思えば、エチオピア音楽の黄金時代の曲をカヴァーするのは、非エチオピア人バンドばかり。
当のエチオピアからオールディーズ・ナンバーを歌う人が現れないと思っていたら、
いきなりベズネシュ・ベケレのカヴァーで真っ向勝負とは、
それでこそエチオピア人魂と、かけ声のひとつもかけたくなるというもの。
しかも、その出来栄えがバツグンなんだから、何をかいわんやです。
ベズネシュ・ベケレの濃厚なこぶし回しやシャープな歌声に、
どこまで迫れるのかと聴く前は心配したものの、一聴でそんな不安は消し飛びました。
いやあ、堂々たる歌いっぷりです。ベズネシュに負けず劣らずの歌声の強さを持ち、
ベズネシュになかったふくよかな味わいまであるんだから、恐れ入るほかありません。
そして、プロダクションの気合の入り方も、並じゃない。
全編で分厚いホーン・セクションが大活躍。
これほど贅沢に生のホーンズを使ったプロダクションは、快挙ですよ。
90年代以降のエチオピア音楽では、ホーンズをシンセで代用するのがデフォルトになり、
もう往年の贅沢なビッグ・バンド・スタイルのサウンドは聴けないと諦めてていただけに、
もう泣き濡れて、ハンカチが2枚目であります。
アレンジはノスタルジック狙いではなく、あくまでも現代的に衣替え。
アバガス・キブレワーク・シオタのようなフュージョン・サウンドではなく、
グルーヴィなビートを強調しながら、鍵盤楽器類でモダンなコード使いを加味して、
往年の名曲をリフレッシュメントさせることに成功しています。
メスフィン・タマレという若いプロデューサー、素晴らしい仕事をしてくれました。
個人的に嬉しかったのは、ベズネシュのシングル盤でぼくが一番好きな
“Yichenkegnal / Aiwetagnim Kefu” を、7・8曲目と連続でカヴァーしていたこと。
未CD化曲のため、知られざる曲だと思いますが、
望郷の念にかられる雄大なバラードの“Yichenkegnal” なんて、いい曲なんですよ。
オリジナルのメロディの良さを損なわず、モダンなサウンドに仕上げていて、サイコーです。
ベズネシュが歌っていた曲のメロディの良さを再認識するとともに、
ベズネシュを知らない人にとっても、
エチオピアン・ポップスならではの味わいを、存分に愉しめる一枚となっています。
Elisabet Teshome "KALE KIDAN TERESTO" Evangadi Productions no number (2015)
[EP] Bezunesh Bekele "Yichenkegnal / Aiwetagnim Kefu" Philips PH226 (1972)