昨年のベスト・アルバムに、幻のビルマ・ギター(バマー・ギター)の名手、
ウー・ティンのアルバムを選ばなかったのは、泣く泣くだったんですよ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-08-06
演奏内容こそ、ベスト・アルバムとしてなんら不足はないものの、
井口寛プロデューサー個人の自主制作盤のため、一般に出回っていないことに加え、
まったく世間に知られていないバマー・ギターのアルバムなのに、
なんの解説もないという不案内ぶりは、
ベスト・アルバムとして選ぶのに、ちょっとどうかと、ためらってしまったからです。
ミャンマーの謎めいたギターに、長い間ずっと関心を寄せてきたぼくのような物好きが、
ここでいくら大騒ぎしても、このままでは一般に知られず、忘れ去られてしまう。
このアルバムの内容がどれだけ貴重で、
リリースされたことの意義深さを痛感しているぼくには、それがどうにもじれったく、
焦燥感に駆られてどうしようもなかったんですよね。
そんな後ろ髪を引かれる思いがあったので、
井口さんから、ウー・ティンの2枚目のCDを出そうと思っているとの連絡を受け、
ついては、解説を書いてもらえないかという依頼には、
合点!と、すぐさまお引き受けしたのでありました。
今作は前回のアルバムと同時期の録音ですが、ソロ・ギター演奏ではなく、
竹製の木琴パッタラーと女性歌手をフィーチャーしています。
古い大衆歌謡のなかで演奏されてきた、
かつてのバマー・ギターのスタイルをうかがわせる趣向となっているんですね。
ぼくがウー・ティンを知るきっかけとなったオランダPAN盤でも、
ヴァイオリンやツィターなどとの合奏3曲が収録されていましたけれど、
今回歌手が加わったことで、歌のメロディとギター・フレーズの対比が、
よくわかるようになりました。
世にもまれなるユニークすぎるスライド・ギターの妙技を味わうにしても、
完全ソロ演奏よりも、今回のように歌の伴奏として聞く方が、
ミャンマー音楽に不案内の人には耳馴染みやすいのではないでしょうか。
今回、井口さんが新作のリリースを考えたのは、
実は今年の春、ウー・ティンが脳梗塞で倒れたことがきっかけでした。
ウー・ティンが元気なうちに、早くCDを届けたいということで、
急遽制作されたのですが、先日出来上がったばかりのCDを
ミャンマーに届けにいったところ、予後が良く、ギターも問題なく弾いているとのこと。
もうギターが弾けなくなってしまったのではと心配していただけに、ほっとしました。
解説はぼくばかりでなく、ウー・ティンに弟子入りした柳田泰さんも書かれています。
世界中を見渡したって、こんなスライド・ギター、ミャンマーにしかありません。
ぜひ聴いてみてください。
U Tin "MUSIC OF BURMA VIRTUOSO OF BURMESE GUITAR -MAN YA PYI U TIN AND HIS BAMA GUITAR-" Rollers ROL004 (2017)