バロジ以来の逸材を発見しました。
85年、コンゴ民主共和国の首都キンシャサに生まれ、
16歳の時に母親とカナダへ移住した、
ピエール・クウェンダーズことジョゼ・ルイ・モダビ。
14年のデビュー作が、いきなりカナダ最大の音楽賞、ジュノー賞の
ワールド・ミュージック最優秀アルバムにノミネートされたという才人です。
今回2作目となる新作リリースで、この人を初めて知り、
話題のデビュー作ともども聴いてみたんですが、
いやあ、スゴイ才能だわ。この音楽性の豊かさはハンパない。
ヒップホップ、R&B、ハウスを縦横無尽に織り込んだトラックに、
コンゴの豊かなリズムが太い根っこになっているところが頼もしく、
カラフルなビートには、アフリカならではのポリリズムが息づいています。
ラップトップ世代であることを強烈にアピールするサウンドづくりには、
ジョニー・クレッグやイヴォンヌ・チャカ・チャカなど、
80年代南ア音楽からの影響も大とのこと。
こんなハイブリッドなアフロ・エレクトロニック・サウンドは、
コンゴ国内からはまず出てこないでしょう。
「フューチャリスティック・ポスト=ルンバ・エレクトロ=ファンク・グルーヴ」という、
コケオドシな形容詞を並べた評も、あながち大げさではありませんね。
デビュー作は、ルンバの要素皆無。
それなのに、強烈にコンゴ臭がするのは、
リンガラ語やルバ語が生み出すビートのせいでしょうか。
ケイジャン・フィドルをカクシ味にした“Mardi Gras” や、
アフリカ神話でおなじみの水の精霊マミ・ワタをタイトルにしたトラックなど、
さまざまなメッセージがこのアルバムには秘められているのは間違いなく、
バロジはじめ、多くのアフリカのラッパーをフィーチャーした話題性より、
注目すべきは、クウェンダーズの音楽性の方でしょう。
新作の方は、ギターや親指ピアノもフィーチャーして、
コンゴリーズ・ルンバを思わせるトラックも出てきますが、
そこにさらにサックスやストリングス・セクションをフィーチャーするなど、
この若者のクリエイティヴィティには、感心せざるを得ません。
インタヴューでは、自身の音楽をワールド・ミュージックと括られることに反発していて、
これだけ豊かな音楽性を持つ彼なら、その反発心もよくわかります。
欧米発のエレクトロニック・ダンス・ミュージックに影響されたアフリカン・ポップスは、
アフリカの音楽性をミジンも持ち合わせていないクドゥロから、
南ア大衆音楽の伝統をうまく生かしたものも一部にはあるクワイトまで、
はっきりいって玉石混交。近年話題のゴムも、クドゥロ同様、現地消費用音楽で、
フォロー不要と割り切ってしまいたくなるところなんですが、
なかには南アのスポーク・マサンボのように、
突き抜けた才能を発揮する音楽家もいるので、なかなか無視もできません。
この方面の音楽は、デジタル・リリースが主流ですけど、
クウェンダーズはフィジカルでもリリースしていて、好感度大。
スポーク・マサンボの新作も、早くフィジカル化してくれないかなあ。
それはさておき、アフロフューチャリズムの偉才、
アフロ・ディアスポラのピエール・クウェンダーズに要注目です。
Pierre Kwenders "LE DERNIER EMPEREUR BANTOU" Bonsound BONAL037CD (2014)
Pierre Kwenders "MAKANDA" Bonsound BONAL054CD (2017)