なんて泣ける歌が詰まったアルバムでしょうか。
カビールの歌は、涙の味がします。
人生の苦渋を移し替えたような、苦味のあるメロディ、
勝ちめのない勝負とわかっていても、闘わなければならない者を励ます歌。
そんなふうに感じるのは、ぼくだけでしょうか。
グッとくる男泣きの曲の数々に、すっかりマイってしまいました。
どうしてこんなに胸を打つメロディばかりが並んでいるんでしょう。
強い男に憧れながらも、オノレの未熟さにため息がもれる、弱き男のアイロニー。
そんな弱き男の味方というか、弱い男の応援歌となってくれるのが、
カビールの歌だという気がしてならないんですよ。
無頼の雰囲気を漂わせるのも、真の強さを持ち合わせない弱さの裏返しで、
抗えない運命に立ち向かう者を奮い立たせる勇気を、その歌は与えてくれます。
双子の兄弟を含む若きカビール3人組のアムジークは、
ベルベルの自称「アマジーグ」と「ムジーク」を結び付けた名前でしょうか。
マンドーラ、バンジョー、ギター、ヴァイオリン、ピアノ、ベンディール、
ダルブッカなどの生音を中心とするサウンドに、シンセやストリングスを施し、
ユニゾンのコーラスを中心とした歌を聞かせてくれます。
幸福感のある明るい歌にさえ、やるせない切なさが宿る、
心優しき男のロマン溢れるアルバムです。
Amzik "ASUYU N TEMZI" Music Pro 194/16 (2016)