バロジ、でか!
190センチくらい、あるんじゃないの?
22日、代官山の会場(晴れたら空に豆まいて)の入口で、
ぼくの後ろに何気にご本人が立っていて、思わず腰を折って見上げてしまいました。
開演前に知人と、バンド連れてきてるのかな?
ひょっとしてバロジ一人でカラオケだったりして、
なんて話をしていたら、ドラマーとギタリストを帯同とのこと。
あれまあ、ベースはいないのかと、やや気落ちしてたら、
さっきバロジに取材してきたばかりという石田昌隆さんが隣にやって来て、
ギタリストはディジー・マンジェクだよと耳打ちされ、仰天。
まじですか! あのO・K・ジャズで鳴らしたギター・レジェンドですよ!
うお~、スゴい人連れてきたな、バロジ。
じっさい、ステージ上でのマンジェクの存在感たら、なかった。
何気ないフレーズに、奥行きありまくり。
ツー・フィンガーで、あらゆるルンバ定石のリックを、余裕シャクシャク繰り出すんだから。
ニマッと笑う横顔なんて、B・B・キングそっくりじゃないですか。
非ルンバのヒップホップ・トラックでは、エフェクターを利かせ、
ピック使いでリックも変えるという柔軟性は、ヴェテランの成せる業ですね。
Tボーン・ウォーカーばりの背面弾きも、定番芸なのでしょう。
そして主役のバロジは、モデルばりの細身のスタイルにも似合わず、声がデカい。
男っぷりも最高で、婦女子イチコロじゃない?
フロウも快活で、なめらか。艶やかな声は、CDで聴く以上の魅力がありました。
ブルキナベのドラマーは、PCの音出しとコーラスも兼任。
ヒップホップとルンバ・コンゴレーズを麗しく融合させたビートとサウンドで、
ベース不在のボトム不足も気にならず、気持ちよく踊れました。
あっという間の60分。
アンコールには応じず、あさってのフリー・コンサートは、
メンバーも増えるのでぜひ来てねというメッセージを残して、あっけなく終了。
そして迎えた24日、アンスティチュ・フランセ東京の恒例イヴェント、
フランコフォニー・フェスティバルへ出演したバロジ一行、
ベースとキーボードの二人が加わり、ようやくメンバーが勢揃い。
なんでも昨日ようやく日本に到着したとかで、なんかトラブってたんだろうね。
22日同様、メンバー全員ライト・グレーの揃いのスーツに、
ピンクのチーフを胸にさした衣装で、びしっと決めてます。
やっぱ、ベースがいるといないとじゃ、グルーヴは段違い。
6弦ベースを抱え、ルンバ定型をはみ出すプレイで、
ヒップホップ・ビートとの相性もバツグン。ソロでは巧者ぶりがうかがえましたよ。
そしてキーボードは、ジャジーなフレーズも得意のような、
ヒップホップ・サイドのプレイヤーとお見受けしました。
22日とまったく同じの演目なれど大満足、
多幸感に身体を満たしたのはぼくばかりじゃないでしょう。
で、バロジの新作。
23日が世界リリース日だったので、24日のライヴが始まる2時間前、
輸入CDショップでオリジナルのUK盤をぎりぎりセーフで入手しました。
ライヴが終わり、帰宅してから、ようやく聴くことができたんですが、
これがすんごい力作で、ブッ飛びましたよ。
8年前、アフリカに多くの独立国が誕生した「アフリカの年」から、
半世紀を迎えた記念すべき年にリリースした前作は、
コンゴ音楽の歴史的名曲「独立チャチャ」をカヴァーするという、
歴史的意義が込められた傑作でした。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-07-25
そんなレトロ趣味のおかげで、
普段ヒップホップを聞かないオールド・ファンも絶賛しましたけれど、
あのテの演出は一回限りのものだから、
次作はどうくるんだろうと思っていたんですよね。
そんな心配というか、懸念をよそに届けられた新作は、
こちらの想像をはるかに上回る、才能がぎっしりと詰まったトラック揃いでした。
コンゴ国内のアーティストからは出てきようのない、
まさしくアフロピアンだからこそ生み出せる世界観が、濃密に噴出しています。
リリックがわからずとも、サウンドが物語性を饒舌に示しているじゃないですか。
ヒップホップ、ルンバ・コンゴレーズ、ファンク、ジャズの要素を、
カット・アンド・ペーストしながら、
パッチワークのように組み合わせる工夫が機知に富んでいて、
そのアイディアにバロジの才能が光ります。
ソマリアのドゥル・ドゥル・バンドをサンプルするマニアックぶりにも舌を巻いたし、
エレクトロと生演奏のブレンドぶりも、絶妙というほかありません。
苦手なフレンチ・ラップやポエトリー・リーディングが、
どうしてこれほど耳に心地よく響くんだろう。
こういうのもフランスで最近流行するアフロ・トラップと呼んでいいんだろうか?
ベルギー暮らしが長いというのに、フランス語より英語の方が得意というのも、
変わっているよなあ。リンガラ語やスワヒリ語はまったくダメらしいし。
現地のコンゴ音楽は、ンドンボロからエレクトロへと向かうトレンドにあり、
アフリカとヨーロッパの往来によって、
ますますデジタル・ミュージックやアフロビーツへの接近が著しいことは、
キンシャサ帰りの奥村恵子さんがレポートされていましたね。
そこに、バロジやピエール・クウェンダーズのような
アフロポリタンのミュージシャンたちが、
コンゴ音楽を咀嚼したハイブリッドな音楽を生み出していることは、
いずれ現地のシーンにも、大きな刺激を与えていくはずです。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-10-08
バロジの今作は、単にアフリカン・ヒップホップ最高峰のアルバムというばかりでなく、
今後のアフリカ音楽を変貌させていく起爆剤が、
彼らのようなアフロポリタンだということを確信させます。
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Baloji "137 AVENUE KANIAMA" Bella Union BELLA709CD (2018)