ニュー・ヨークのジャズ・シーンで、いまもっともクリエティヴなピアニストとして
注目を集めるクリス・デイヴィスが、ベーシストのエリック・レヴィスとともに来日。
4月5日、新宿ピットインへ観に行きました。いや、もう、最高でしたよ。
1曲目のアンドリュー・ヒルの曲から、低音域をゴンゴン鳴らして音塊を作りつつ、
中高音域で分散和音を自在に作り出していく、クールで理知的なプレイに、
「なんか今、オレ、スゴいもん観てる?」みたいなワクワク感が止まらず。
エリック・レヴィスと目配せすることもなく、じっと譜面を見つめながら、
淡々と演奏を進める低体温なプレイぶりは、
“DUOPOLY” のDVDであらかじめ知ってはいましたけれど、
作曲と即興の境目がみえない、音楽としての完成度の高さにノックアウトされました。
一音一音にすべて意味があって、無駄な遊びがなく、過不足ない演奏ぶりがスゴイ。
内部奏法や、弦に作業テープを張り付けるプリペアードも、
きちんとコンポーズされた一部であって、
ピアノの音色や響きまでが、前もってきちんと選び抜かれていることがわかります。
エリック・ドルフィーを引用したり、自在に即興演奏していたフシはあるものの、
作曲と即興があまりにシームレスなのは、“DUOPOLY” そのままでしたね。
無機的な音を強い打音で響かせて、
フィリップ・グラスのようなミニマルな展開をみせるかと思えば、
一転、柔らかなピアニッシモで、流れるようなフレーズをつむいだりと、
垂直にも水平にも、自在に行けるひらめきのあるプレイの連続で、
心臓のドキドキが止まりませんでした。
唐突に演奏を終える、ぶっきらぼーな曲の終わり方も、良かったな。
かっちりとした構造物のような演奏なのに、窮屈さを感じさせず、
リラックスして聴けるのが、なんとも不思議な感覚でした。
いわゆるフリーな演奏といえるんですけれど、
緊張感や情動に訴えるところがなくて、
音の響きはとても刺激的なのに、音楽はとても落ち着いているというか。
ジャズと現代音楽の快楽をあわせもった音楽ですね。
相方のエリック・レヴィスの、剛腕ならぬ剛指ぶりもスゴかった。
パワフルな運指がもたらす強靭な響きとともに、
クリスの音と柔軟に呼応しながら、緩急をつけていく有機的な絡み合いが、
サウンドスケープを雄大なものにしていました。
この夜、一番ジャズらしい即興性の「遊び」を感じさせたのが、
アンコールでやったセロニアス・モンク。
この日この曲だけ、クリスはエリックに目配せしながら、
オーソドックスなジャズ演奏を聞かせたんだけど、
なんだか見事にケムに巻かれちゃったという感じ。
クリス・ディヴィスといい、メアリー・ハルヴァーソンといい、
フリーはカナダ人女性の活躍が目立ちますねえ。
奇しくもこの日、セシル・テイラーが亡くなったことを翌日に知り、
ショックを受けましたけれど、ジャズは先人の遺産をしっかりと養分にしながら、
たゆみなく発展している姿を目撃できた一夜でありました。
[CD+DVD] Kris Davis "DUOPOLY" Pyroclastic PR01/02 (2016)
Eric Revis "SING ME SOME CRY" Clean Feed CF428CD (2017)
Borderlands Trio (Stephan Crump, Kris Davis, Eric McPherson)
"ASTEROIDEA" Intakt CD295 (2017)