クラリネットがひらひらと東欧風メロディを紡ぐイントロで始まる、
今日びのライには珍しい、生演奏によるアルバム。
サックス、サズ兼ギター、シンセサイザー、シンセ・ベース、ドラムス、ダルブッカの
6人組バンド、マザルダを従えた、
ライ歌手ソフィアン・サイーディの2作目となる新作です。
ソフィアンは、シェブ・マミのかつての代名詞「ライのプリンス」をもじって、
ライ新世代を表す「ライ2.0のプリンス」を自称しているんですが、
このオールド・スクールぶりは、どうでしょう。
「ライ2.0」なんて称するくらいだから、
打ち込みにオートチューン標準仕様のライアンビーを、
さらにエレクトロ化したハイテックなライなのかと想像していたら、
真逆の80年代ポップ・ライに回帰したレトロ・サウンド。
本人の言によれば、ロック、ファンクはもとより、
シャアビ、ボリウッド、グナーワ、ンバラ、エチオピア音楽、マリ音楽まで貪欲に消化した、
ワールド・ミュージックとしてのライを目指すというのだから、変わっています。
今日び新しい世代ほど、ワールド・ミュージック扱いされるのをイヤがるもんですが。
なぜそれほどワールド・ミュージック志向なのかと思ったら、経歴を調べてナットク。
アルジェリア、オランの南80キロに位置する、
シディ・ベル・アッベスに生まれたソフィアンは、
18歳でパリへ渡り、96年にセネガル系フランス人のヒップホップ・グループ、
トゥクルールへ参加したあと、ヨグ・ソトースやアリ・ドラゴンといった
フランスのワールド・ミュージック系バンドを渡り歩いているのでした。
またこの当時、モロッコ系フランス人DJ/プロデューサー、ナーブに呼ばれ、
アラビック・ドラムンベースの名作“SALAM HALEIKOUM” に起用されたとのこと。
お、そのCDなら持ってるとチェックしたところ、確かに2曲で参加していました。
その後は、ナターシャ・アトラスのグループに参加、
レコーディングやツアーに同行するなど、
ワールド・ミュージック関係のアーティストとの共演を重ね、
ようやく15年にソロ・デビューをしています。
なるほどキャリア十分、ソロ・アクトに転じるまで、ずいぶんと時間のかかった人で、
遅れてきたワールド・ミュージックのライ・シンガーという感じでしょうか。
リミッティをリスペクトしているのがよく伝わるルーツ志向のサウンドで、
既聴感のあるバンド・サウンドは、ライナ・ライそのもの。
覚えていますか? ライナ・ライ。
80年にパリで結成されたライナ・ライのメンバーはみな、
シディ・ベル・アッベスの出身でした。
まさしくソフィアンの大先輩なわけで、ワールド・ミュージックを志向するあたりも、
ライナ・ライをお手本にしたに違いありません。
そう考えて聞いてみれば、マザルダのサウンドは、「ライナ・ライ2.0」といえるかも。
アナログ・シンセサイザーやシンドラムなんて、いまやヴィンテージものの楽器を多用して、
80年代サウンドの再現に余念がありません。
シンセ・ベースがやたらとグルーヴィで、カッコいいんだよなあ。
フックの利いたラインが耳残りします。
ライナ・ライをブラッシュアップしたサウンドにのせて歌うスフィアンの、
こぶしの利いたむさ苦しい歌声も、
シェブ・ハレドやシャバ・ファデラがぶいぶい言わせてた頃の
大衆酒場のライの雰囲気をホウフツさせ、酔いしれます。
Sofiane Saidi & Mazalda "EL NDJOUM" Airfono AF0422401CD (2018)
Naab "SALAM HALIKOUM" Bloom 016878-2 (2002)
Raïna Raï "HAGDA" Blue Moon Productions BM131CD (1983)
Raïna Raï "LIVE IN PARIS" Hamedi 103202 (1989)