日常的に日本のポップスを聴く習慣があまりないので、
あくまでも偶然耳に飛び込んできた歌に、
反応する範囲での感想にすぎないんですけれど、
最近の日本の若手の歌って、日本語の響かせかたが、
べらぼうに巧みになったのを感じます。
先日知った折坂悠太もそうでしたけれど、
日本語を英語風に崩して発声するタイプの日本語ポップスの歌唱とは、
まったく異なる語法を身に付けている人が増えたように思います。
母音を強調する日本語の発声のまま、洋物のリズムにのせるスキルが、
若手はものすごく上達したんじゃないでしょうか。
これって、ヒップホップを通過した若い世代ならではの、
リズムやビートに対する鋭敏な感受性が成せる技という気がします。
もっとも、大西順子のアルバムにゲスト参加していたような、
昔の日本語フォークみたいなラップを聞かせる者もなかにはいるわけで、
みんながみんな、スキルが上がったわけでもないようですけれど。
日本語の響きをビートにのせることにかけては、
ヒップホップより、むしろポップスの分野できわだった才能が目立ちます。
水曜日のカンパネラのコムアイしかり、小田朋美しかり。
彼女たちのようなリズム・センスって、一昔前までは、
矢野顕子のようなひと握りの天才だけが持っていたものだったのに、
いまや多くの若手が獲得しているのだから、とてつもない進化です。
そんなことをまた思わせられたのが、
京都のシンガー・ソングライターという中村佳穂の新作。
ビート・ミュージックに始まり、新世代ジャズやネオ・ソウル、ピアノ弾き語り、
民謡をモチーフにした曲など、さまざまな情報を詰め込んだトラックが並ぶものの、
一本芯が通っているのが、ビートで磨きあげられた日本語の響きです。
作為のない中村の発声が、日常感情を率直に表現した歌詞をまっすぐに伝えます。
「日本語ロック論争」などといったものが、
完全に昔話となったのを実感させる、頼もしい若手たちの登場です。
中村佳穂 「AINOU」 スペースシャワー DDCB14061 (2018)