フランス領ギアナのCDをあれこれ買ったのは、
ヴァレリー・ジョアンヴィユの80年作がCD化されたのを知ったからでした。
せっかくだから、ほかにも何かないかなと探して、網に引っ掛かったのが、
スフランとフェルミエやヴィクトール・クレだったんですね。
で、そのお目当てのヴァレリー・ジョアンヴィユの80年作、
フランス領ギアナの伝統音楽に関心がある人なら、見逃せない名作なんですよ。
太鼓と歌というシンプルなフォーマットの、
コーラスとのコール・アンド・レスポンスの音楽ですけれど、
トトー・ラ・モンポシーナが好きな人だったら、ゼッタイ気に入りますよ。
フランス領ギアナに伝わるクレオール・リズムには、
カセーコ、グラジェ、レロール、カムゲ、デボ、ベリア、グラジェヴァル、
ジャンベル、ムララ、カラジャ、ジュバなど、数多くのリズムがあります。
このうちヴァレリーは、最初に挙げた6つの代表的なリズムを取り上げた曲を
メドレー形式で歌っていて、各リズムの特徴をはっきり聴き取ることができます。
カムゲとベリアは奴隷時代に遡るワーク・ソングを起源とするリズムで、
ベリアはフルベ(プール)人が伝えたリズムだとのこと。
グラジェとレロールはアフリカとフランスが混淆したリズムで、
グラジェはワルツ、レロールはカドリーユを、
アフリカのテイストでミックスしたリズムです。
グラジェはフレーム・ドラムで演奏され、このリズムで踊られるサロンは、
人々をダンスに招き入れるイントロダクションの役割を果たし、
このアルバムでも1曲目で演奏されています。
デボはセント・ルシア島から伝わったムララが起源のリズムで、
基本パターンはカセーコと変わりありませんが、
歌やソロの場面では違いが出るといいます。
そして、フランス領ギアナを代表する
アフロ=ガイヤネーズ文化が生み出しリズムがカセーコですね。
西隣のスリナムでブラス・バンドと結びつき、
ポピュラー化したジャンル名として有名になりましたけれど、
もとはギュイヤンヌ発祥のクレオール・リズムなのです。
ヴァレリーはギュイヤンヌの伝統音楽を継承するため、
75年にレ・サポティーユを結成し、国内ばかりでなく海外にも招聘されて演奏し、
フランス、イゼール県のモンセーヴルーで開催された
国際フォーク・フェスティヴァルに出演した時に、本ライヴ録音が残されたのでした。
野性味溢れる太鼓のサウンドを生々しく捉えた録音もバツグンなら、
当時44歳のヴィヴィアンの歌声にも華があり、ギュイヤンヌ音楽の名盤となりました。
82歳となった今もヴァレリーは現役で歌い続けていて、
今年リリースされたギュイヤンヌの伝統音楽集でも、
ヴァレリーの歌が2曲収録されていました。
ちなみにこのギュイヤンヌの伝統音楽集では、全16曲中13曲がカセーコ、
ベリアが1曲、カラジャが1曲、デボが1曲と、カセーコがほとんどを占め、
ギターやベースが伴奏に付く曲が多くなっています。
カラフルなギュイヤンヌのクレオール・リズムと、
オーセンティックなパーカッション・ミュージックの良さを双方味わえる
ヴァレリーの80年作は、またとないアルバムです。
Valérie Joinville Et Les Sapotilles "VALÉRIE JOINVILLE ET LES SAPOTILLES" Sun Studio SUN199013 (1980)
v.a. "GUYANE HERITAGE 1ER DEGRÉ" Patawa KK11 (2019)