ゴミやキズがたくさん付いたネガ・プリント。
まるで災害現場に落ちていたかのような、古く退色した写真を演出したジャケットは、
メンフィス生まれ、今はカンザス・シティに暮らすという、
女性シンガー・ソングライターのデビュー作です。
テナー・バンジョーの弾き語りという、シブいアメリカン・フォークのスタイルは、
近年のアメリカーナとはちょっと趣が違っていて、
よりオーセンティックなルーツ志向を感じさせます。
ケリー・ハントの機知に富む歌い口には、ガッツを感じさせるだけでなく、
スウィートさもあって、ボニー・レイットのデビュー当時を思い起こしてしまいました。
これって、新人だけが持つイキの良さじゃないですかね。
ほとんどの曲が、彼女の弾くテナー・バンジョーに、
フィドルやベースが控えめにバックアップするだけというシンプルなつくりで、
太鼓だけをバックに歌う‘Delta Blues’ など、彼女のピュアな歌声が胸に響きます。
ケリーは十代の頃からピアノで曲づくりをする一方、演劇を習い、
大学でフランス語とヴィジュアル・アートを学んでいる時、
100年前に使われていた古いテナー・バンジョーを手に入れ、
独学で弾くようになったのだといいます。
ブルーグラスのような派手な弾き方をしないので、
かつてジョン・ハートフォードが弾いた、オールド・タイム・バンジョーのような
味わいを感じさせます。
モノトーンなサウンドの曲が続くなか、ラスト・トラックの‘Gloryland’ のみ、
オルガンやコーラスも加わったカラフルなサウンドとなっているところが、
アルバムを締めくくるうえで、とてもいい演出になっていますね。
古いゴスペルの味わいにスワンプの香りが漂う、
とても印象的なトラックに仕上がっています。
Kelly Hunt "EVEN THE SPARROW" Rare Bird RBR01 (2019)