いきなりフェラ・クティの‘JJD’ が飛び出し、ノケぞり。
のっけからアッパー・カットを食らって、身体は硬直、ボーゼンとしてるところに、
続いて‘Zombie’ が畳みかけてくるんだから、
うおーーーーーーー、こいつぁ、ハンパない。
さらに‘Coffin For Head Of State’ をサンプリングしたトラックまであるじゃないですか!
ナイジャ・ヒップホップのラッパー、ファルズの新作は、
フェラ・クティの遺産を大々的に引用するという、
そんじょそこらの覚悟じゃできないことをやらかした衝撃作。
ジャケットのアートワークも、フェラ・クティの数多くのジャケットを描いた名デザイナー、
ガリオクウ・レミが手がけています。
胸の昂ぶりを抑えるのも大変なアルバムなんですが、
ナイジェリア社会の不正義に、真正面から本気で怒りまくったラッパーは、
イードゥリス・アブドゥルカリームの“JAGA JAGA” 以来なんじゃないでしょうか。
「ナイジェリアは何もかもメチャクチャ」とラップした、
イードゥリスの04年作“JAGA JAGA” のジャケット・カヴァーも、
そういえばガリオクウが描いてましたね。
冒頭の‘JJD’をサンプリングした‘Johnny’ は、
18年7月に、アブジャでNYSC(国家青年奉仕団)の女性メンバーが
警官に撃たれて死亡した事件に触発されたトラックです。
この事件は、NYSCのミッションをあと数日で終えようとしていた女性メンバーと、
彼女の友人たちが乗っていたオープン・カーが、検問を停止せずに通過したとして、
警官が車に向けて発砲したことで起きたものです。
撃たれた女性は病院に運び込まれたものの、
病院は治療の承認が警察から得られないと治療を拒絶し、
女性は大量出血で死亡、わずか23歳の若さでした。
軍政時代から依然として変わらない、社会の不公正、警察による残虐行為、
政治システムの腐敗、宗教問題の二重基準、富の集中と貧困。
ファルズはこうした社会問題に向き合うために、フェラ・クティの力を借りたのですね。
ナイジャ・ヒップホップがビッグ・ビジネス化したことで、
ソーシャル・メディアからの圧力も高まり、
社会問題や政治的なコメントを避けるラッパーが増えたとも聞きます。
そんななかで、社会問題に舌鋒鋭く対峙するファルズは、
フェラ・クティをサンプルする有資格者といえるでしょう。
フェラの音源を引用したラッパーは、ファルズが初めてではありません。
カーリ・アブドゥのミックステープ“MINISTRY OF CORRUPTION” がありました。
しかし、フェラのスピリットにまで迫って、そのエネルギーを引き出すことができたのは、
ファルズが初めてでしょう。それが出来たのは、
ファルズのエネルギーがそれだけ凝縮され、スパークした証左です。
‘E No Finish’ でのピジン・イングリッシュの滑舌なんて、
フェラの歌いっぷりをホーフツとさせるじゃないですか。
ピジン・イングリッシュ独特のがくがくとしたフロウからは、
なめらかにラップしたんじゃ、若者の胸にメッセージが突き刺さらないという、
ファルズの心意気が聞こえてくるようです。
Falz "MORAL INSTRUCTION" Bahd Guys no number (2019)
Eedris Abdulkareem "JAGA JAGA" Kennis Music KMCD040 (2004)