「近頃の若いもんは…」。
つい、心の中で舌打ちした時は、ちょっと立ち止まって考えないと、アブナイんだよなあ。
感情にまかせると、あとで恥かくのはこっちの方だからねえ。
自分が長年慣れ親しんだ感覚と違う違和感は、
新しさへの反発にすぎない、単なる老化現象にすぎないことがほとんどだし、
そもそも、それは、近頃の若者のせいなんかじゃなくて、
昔にだってあったんじゃないか、ってことだってある。
そうやって、色眼鏡を外して、事実を冷静に観察してみると、
なぜ感情的に反発したのかがわかってきて、ほかにもいろいろ見えてくるものがあります。
最近そんなことを思い巡らしたのが、20世紀最高の「ビルマの竪琴」サウンの名手といわれる
インレー・ミン・マウン(1937-2001)の名演集です。
去年ミャンマーに行っていた方に買い付けてきていただいたもので、
エル・スールにも入荷したので、すでに耳にした方は多いと思うんですが、
ここで聞けるインレー・ミン・マウンの弦さばきは、本当に素晴らしいんです。
弦音が立ち上がるシャープなサウンド、1音1音の美しい粒立ちは、もう絶品。
インレー・ミン・マウンを聴いていると、これこそがサウンだよ!って気になって、
こういう弦さばきが、まったく聞こえてこない最近の若いサウン奏者に対して、
「近頃の若いもんは…」というお決まりのフレーズが、心の中に浮かんでくるっていうわけ。
サウンのインスト・アルバムというと、
音楽学校の先生をしているライン・ウィン・マウンのミャンマー盤がたくさんあるんですけど、
この人のサウンのプレイは、どれを聴いても物足りないんですよね。
弦をはじく指の力が、インレー・ミン・マウンの半分もないんじゃないかという弱さで、
ピッキングするというより、流し弾きするタイプなんですよ。
だから、アタックの強さはまるでないし、
弦がぼきぼきとリズムを刻むようなサウンドは、出てくるわけもありません。
でも、こういうパッと聞き、「きれい」なサウンドが、一般ウケするんだよなあ。
こういう弦楽器の弾き方の傾向って、アフリカのコラでも同じことがいえますよね。
最近のコラ奏者のプレイって、総じて「キレイ・キレイ」で、
たとえば、往年のバトゥル・セク・クヤテと今のバラケ・シソコのプレイを比べれば歴然です。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-05-16
インレー・ミン・マウンやバトゥル・セク・クヤテのような往年の名手のレコードやCDは手に入りにくく、
ライン・ウィン・マウンやバラケ・シソコのアルバムは容易に入手できるので、
どうしたってみんなサウンやコラの演奏は、
ハープみたいな流麗なものとばかり思っちゃうんですよね。
違うんだよなあ。
垂れ流しのような演奏ばっかり聴いてちゃ、この楽器の魅力はわかりません。
野趣に富み、奔放な技巧を聞かせたかつての名手たちから、
もっとガッツのある逞しいサウンの響きを知ってほしいですね。
[CD+DVD] Innlay Myint Maung "THE FULL MOON DAY OF MYANMAR HARP" Eastern Country Production ECP-N27