マリ、バマコ生まれのインナ・モジャは、フランスのファッション界で活躍するマヌカン。
“French Cancan” の世界的ヒットで、顔と名前は知ってましたけど、
その後聞いた10年のデビュー作が、セレブの道楽芸みたいな凡庸ポップスで、幻滅。
マリ人といっても、アフリカン・ポップスとは無縁の人と思っていたら、
3作目の新作のジャケットは、故国マリが舞台となっていて、
タイトルもずばり『モテル・バマコ』ときましたよ。
ショービズ界のセレブの突然の心変わりに、こりゃまた一体どうしたことかと思えば、
内戦状態に陥った故国マリへの、怒りと悲しみに満ちたプロテスト・アルバムとなっていて、
インナは本気モードで、怒ってます。ちょっとびっくりしつつも、
“French Cancan” のケーハクなセレブというイメージが払拭されました。
イスラム過激派によって占領されたトンブクトゥで、
女性たちが迫害されていることに対する、怒りに満ちた“Tombouctou” では、
英語の歌詞とバンバラ語のラップで、屈辱を受ける女性たちに向け、
口を覆うスカーフを取りなさい(黙ってないで発言しなさい)と歌っています。
ただし、本作のベーシックなプロダクションは、あくまでもエレクトロ・ポップです。
リズム処理にアフリカらしいグルーヴ感はないし、
コラもサンプルという作り物感いっぱい仕上がりなので
アフリカはあくまでもサウンド・コラージュという側面は拭えません。
それでも、ウム・サンガレをゲストに迎えてマリで録音した曲では、
ズマナ・テレタのソクやカマレ・ンゴニをフィーチャーしているし、
在フランス・マリ人ラッパーのオクスモ・プッチーノをゲストに迎えた曲は、
ヴェテランのシェイク・ティジャーン・タルがプロデュースしています。
そうそう、コンゴ人ラッパーのバロジもゲストに加わっていますよ。
今回初めて知ったんですけど、インナはフランスに来る前、
レイル・バンドでコーラス・ガールをやっていたんですってね。
鼻持ちならないマヌカンとばかり思っていましたが、
ちゃんと音楽のキャリアもあったとは、失礼いたしました。
個人的に好感を持ったのが、ジャケット内部やCDレーベルのデザインに施された、
バンバラの伝統的な泥染布や、ライナーにあるマリで撮影されたインナーのご両親の写真など。
アフリカン・ポップス・ファンにはおススメしにくいものの、
マリ人女性として黙っちゃられぬと、根性みせた一作、意気に感ずです。
Inna Modja "MOTEL BAMAKO" Warner Music France 0825646051083 (2015)