アンゴラの女性シンガー、パトリーシア・ファリアは、81年ルアンダ生まれ。
ガール・グループのアス・ジンガス(・ド・マクルソ)で活動した後、ソロ歌手に転身し、
内戦がようやく終結した02年にデビュー作の“EME KIA” を出しました。
デビュー作が出たのは、まだセンバがリヴァイヴァル・ブームとなる前のことでしたけれど、
パトリーシアはすでにセンバの曲を多く歌っていて、
キゾンバ、アフロ・ズーク、サルサといったレパートリーとともに、
キレのあるフレッシュな歌声を聞かせていました。
歌いぶりにまだ若さゆえの気負いも目立ちましたけれど、今から考えると、
若手によるセンバ復興の兆しがすでに垣間見えるアルバムだったのですね。
09年には、パウロ・フローレスやユリ・ダ・クーニャをゲストに迎えたセカンド作
“BAZA, BAZA” を出します。このアルバムのプロダクションは超充実していて、
アフロ・ズークをベースとしたキゾンバながら、生演奏にこだわったスグレもの。
厚みのあるパーカッション・アンサンブルに、ホーン・アンサンブル、弦セクション、
アコーディオンやハーモニカに加え、ロック調ギターやラップの取り入れ方も鮮やかで、
複雑なサックス・ソリをさらりと組み込んだり、高度なアレンジに舌を巻きました。
アルバムのフックとなるダンサブルなセンバの‘Nzagi’ も、爽快な仕上がりでしたね。
これほどの充実作を出したものの、その後長くブランクが空いてしまいます。
パトリーシアはラジオ・ルアンダのブロードキャスターで、法律家でもあり、
歌手以外の活動が忙しかったのかもしれません。
というわけで、10年ぶりに3作目となる新作が届いたんですが、
前作の懲りに凝ったプロダクションのキゾンバから一転、
今作はセンバにこだわったアルバムとなりました。
こちらをまっすぐに見すえたくりっとした目に、
南部アフリカの伝統的な化粧をあしらったポートレイトというツカミのあるジャケットに、
今回も傑作の予感をおぼえましたが、予想は大当たり。
すっかり声も円熟して、気負うなく歌うパトリーシアの歌声は、
これぞアフリカン・フィメール・ヴォーカルといった味わいに溢れています。
1曲目は意外にもセンバでなく、
北東部チョクウェ人の伝統音楽チアンダのリズムを取り入れたもの。
ルンバぽいリズムですけれど、コンゴ民主共和国やザンビアにも暮らす
チョクウェの音楽をオープニングにするとは、意表を突かれました。
そして2曲目からは、センバ尽くし。
マラヴォワ風のヴァイオリン・セクションが伴奏につく2曲目以降、
アコーディオンや華やかなホーン・セクションもたっぷりとフィーチャーして、
ディカンザの刻みをこする響きも小気味よい、ダンサブルなセンバが続きます。
前半の中ほどには、メロウなズーク・ラヴの‘Será Que Vale a Pena’と
センチメンタルなボレーロの‘Toda Mulher’のスロー・ナンバー2曲を置いたのも、
ダンスの中休みとなっていて、いいアルバムの流れとなっていますね。
長いブランクをものともしない、見事な仕上がりに感服しました。
「キゾンバやクドゥロばかりじゃないのよ」というパトリーシアの発言も頼もしい、
センバのディーヴァとしての復活です。
Patrícia Faria "EME KIA" Balafon RNA-PF001-02 (2002)
Patrícia Faria "BAZA, BAZA" Paty Faria no number (2009)
Patrícia Faria "DE CAXEXE" Xikote Produções no number (2019)