2016年のベスト・アルバム、一番のり~♪
昨年末にギリシャでリリースされた、ヨルゴス・ダラーラスの新作でっす。
老いを隠せないハリス・アレクシウの歌いぶりにショックを受けたせいか、
ギリシャ歌謡からすっかり遠のいた、今日この頃なんでありますが、
やっぱヨルゴス・ダラーラスは、帝王だわ。さすがです。
歌いぶりこそ、ヴェテランの安定感にウナらされますけれど、
さまざまな音楽家とコラボしながら、野心的なアルバムを作り続ける
チャレンジングな姿勢がすごい。攻めてますよねえ。
新作は、映画音楽作曲家のニコス・プラティラコスとの共同制作で、
いつものミノスからではなく、ニコス・プラティラコスが関係する映画配給会社のレコード部門、
フィールグッド・レコーズからのリリースとなっています。
ニコス・プラティラコスは、アテネのミュージック・コンセルヴァトリーでピアノと作曲を学んだ後、
ハノーヴァーとケルンの大学で演劇と舞踏を学んで、ドイツの映画音楽界で成功した人とのこと。
現在もドイツとギリシャを行き来しながら活躍をしているそうですが、
ダラーラスとタッグを組んだ今作は、映画『スティング』を思わすムードの、
安酒場のアップライト・ピアノで弾かれるラグタイムに始まります。
このオープニングのインスト・ナンバーから、いつものダラーラスと違う予感を漂わせますが、
なんと今回の新作、レンベーティカとラグタイムをミックスするというアイディアを実現したもの。
これがなんとも絶妙な組み合わせというか、
こういう音楽が昔から存在したんじゃないのかと思わせるほどの相性の良さをみせます。
鄙びたジューク・ジョイントの雰囲気を横溢するラグタイム・ピアノの響きに、
レンベーティカらしいブズーキやバグラマーの弦の響きが混ぜ合わさり、
そこにディキシーランド・ジャズふうの金管・木管の管楽器が華を添えていくサウンド。
レンベーティカとラグタイムのどちらも、裏町の影をひきずっていて、
この二つの音楽が抱える闇が、妖しく共鳴するのを感じます。
レンベーティカがハッシシを吸わせるアテネの外港ピレウスのテケー(バー)から生まれたように、
ラグタイムが1880年代のセント・ルイスのサロンや売春宿から生まれたのは、
世界の大衆音楽史からみれば、偶然なんかじゃありませんよね。
ダラーラスも、いつもよりざらりとした舌触りを残す苦味の強い歌い口を聞かせていて、
枯れた味わいのなかに、ブルージーなやるせなさを溢れさせています。
裏街道を行く哀愁を濃厚に表わしつつ、
意外にもノスタルジックなムードをまとっていないのは、この音楽が仮想のものだからでしょうか。
ランディー・ニューマンのアイロニーに通じる現代性を感じさせます。
Gergos Dalaras & Nikos Platyrachos "TA ASTEGA" Feelgood 521003300094 (2015)