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サンバにアレグリアを取り戻せ アウグスト・マルチンスとクラウジオ・ジョルジ

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Augusto Martins e Cláudio Jorge  ISMAEL SILVA ; UMA ESCOLA DE SAMBA.jpg

そうか、メロディが違うのか。そういうことだったのかぁ。
ここ2か月ほど、ずっともやもやしていたことが、
このアルバムを聴いてようやく解消することができました。あ~、すっきりしたぁ。

そのもやもやとは、ロベルタ・サーの新作に対する違和感。
一度は夢中になった人なのに、こういうことを言うのはツラいんですが、
今のロベルタ・サーにはまったく期待をしていません。
デビュー当初のみずみずしかった歌唱は、もはやどこにも残っていないし、
だからといって、円熟してまた別の味わいを獲得したってわけでもない。
どこにでもいるMPB歌手になっちゃった感が強くて、
なまじ期待がデカかっただけに、がっかり度合も相当なものでしたよ。

で、12年の前作は単なるMPB作品だったので、簡単に無視できたんですが、
新作はまたぐっとサンバ寄りの作品に仕上がっていたので、困っちゃったんです。
バックがとても良くって、楽器の配置も含めアレンジはバツグンだし、
魅力薄になったロベルタの歌いぶりでも、耳をそばだてられること十分なんですが、
それでも強く残る違和感の原因が何なのか、ずっとわからずにいたんですね。

ざっくりいってしまうと、これって、ブラジル音楽なんだろか、という疑問です。
サンバかどうかという以前の問題で、サウンドだけ聴いていると、
カーボ・ヴェルデ音楽の方が近いようにさえ思えるんですよ。
サンバ新世代によるMPBを通過したサンバ・ノーヴォは、
より汎ポルトガル語圏音楽としての色彩を濃くしているように思えます。
それはある意味で、ブラジル成分を薄めてるようにも思えてならないんですよね。

そう感じる理由はどこにあるのか、それがずっとわからずにいたところ、
アウグスト・マルチンスとクラウジオ・ジョルジの共演作を聴いた途端、雲散無霧。
サンバ育ちのMPBシンガー二人が今作で歌っているのは、
エスコーラ・ジ・サンバを最初に作り出したイズマエル・シルヴァのサンバ集なんですが、
冒頭の“O Que Será de Mim” で、うわー、と思わず声を上げてしまいました。
そうそう、こういうメロディなんだよ、サンバってのはさ。これこそサンバだよってね。

こんなこというと、そりゃアンタが古いサンバが好きなだけだろって、若い人に反発されそうで、
はい、それはその通りなんですけど、古いものばっかりが好きなわけじゃないので、
そこは素直に聞いてほしいんですよね。
サンバの原点といってもいい、イズマエル・シルヴァのサンバを聴いた途端、
するっと理解できるのが、メロディの違い。それって、若い人でも、わかるでしょ?

こういうメロディが、21世紀のサンバからまったく聞かれなくなってしまったのは、
まぎれもない事実でしょう。70年代のサンバ・ブームの頃まではあったのにねえ。
サンバの魅力であるサウダージの感覚は、今も昔も変わることはないものの、
イズマエル・シルヴァのサンバにある、溢れんばかりのアレグリアの感覚が、
今のサンバのメロディには失われてしまっているんじゃないでしょうか。

そのせいか、サウダージ感ばかりが強調されるようになってしまったんじゃないのかな。
ロベルタ・サーがハスッパな歌い方になってしまったのに、ぼくがものすごく抵抗を感じたのも、
サンバが持つアレグリアの感覚を、彼女が失ってしまったことに反応したからだったようです。
比べて言うのも悪いですけど、ベッチ・カルヴァーリョがかつての魅力を失ったといっても、
ベッチにはちゃんとアレグリアの感覚があって、ハスッパな歌い方などはしてませんからね。

アウグスト・マルチンスとクラウジオ・ジョルジは、
シコ・ブアルキやパウリーニョ・ダ・ヴィオラの系譜といえるソフトな歌い口のサンバを歌いつつ、
MPBセンスに富んだ曲も分け隔てなく歌ってきた、似た者同士。
イズマエル・シルヴァという古典サンバを、モダンなサウンドに仕上げつつ、
サンバの魅力の本質であるアレグリアの精神を、しっかりと今に継承して歌ってくれています。

Augusto Martins e Cláudio Jorge "ISMAEL SILVA ; UMA ESCOLA DE SAMBA" Mills MIL051 (2015)

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