フリア・アイシは、アルジェリアのベルベル系先住民シャウイの音楽を教えてくれた恩人。
アルジェリア北東部オーレス山地に暮らすシャウイ人の伝統音楽を現代化した
08年の“CAVALIERS DE L'AURÈS” には、夢中にさせられました。
モダン化したサウンドよりも、フリアの凛とした歌声に胸を打たれ、
シャウイの伝承歌が持つ、雄大なサウンドスケープに魅せられたんですね。
フリア・アイシは、オーレス地方の中心地バトナに生まれた生粋のシャウイ人で、
幼い頃からさまざまな集まりを通して、シャウイの歌を習い覚えてきたそうです。
そんなシャウイ文化にどっぷり浸かったルーツを持つ一方で、
経済的に恵まれた家庭に育ち、学業も優秀だったフリアは、
都会のコンスタンティーヌへ出て中学に通い、
さらにパリへ渡って大学で心理学を学び、大学院で社会学の学位を取りました。
広い世界へ出て高い教養を身に付け、国際的な視野も養ったフリアが、
あらためてルーツを振り返り、シャウイの歌を再構築したのが、
あの名盤“CAVALIERS DE L'AURÈS” だったわけですね。
そして、フリアはシャウイの文化にとどまらず、さらに視野を広げて、
今作ではアルジェリアのさまざまな伝承歌を取り上げています。
今回も、フリア自身が叩く平面太鼓のベンディールを軸に、
アルジェリア独自の弦楽器マンドール、ゲンブリ、ウードに、
笛のガスパ、ネイなど伝統的な楽器のみの伴奏で、
ベンディールだけで歌う独唱も多くあります。
このシンプルなサウンドとフリアのこぶしが、
歌に備わるエネルギーを最大限に引き出しているんですね。
さまざまな儀式で歌われる宗教歌にスーフィーの歌、さらにカビール民謡まで、
アルジェリアの伝承歌の世界を、フォークロアから昇華した地平から歌えるのが、
フリアの稀有な才能。それゆえ、アルジェリア人でない外国人リスナーの耳に届くのです。
Houria Aïchi "CHANTS MYSTIQUES D’ALGÉRIE" Accords Croisés AC175 (2017)