日乃出家小源丸といえば、
河内音頭界のレジェンドと呼ぶにふさわしい、現役最高峰の音頭取り。
その日乃出家小源丸が生誕80周年を記念して、
浅草木馬亭で記念公演を開くというので、妻を誘い行ってきました。
河内音頭は、基本ダンス・ミュージックなんだから、櫓のまわりで踊ってなんぼ。
♪イヤコラセ~ ドッコイセ♪とばかり、踊りに夢中になってしまうと、
音頭取りの歌の文句など、ぜんぜん耳に入らなくなってしまうこともありますよね。
踊って楽しけりゃ、それはそれで十分なんだけど、
河内音頭のレパートリーは、一大ドラマの演目でもあるので、
そこで語られる物語を楽しまない手はありません。
そのためには、櫓じゃなくって、小屋の方がじっくりと楽しめるというもの。
浅草の木馬亭で、日乃出家小源丸の河内音頭を聴けるというのだから、
こんな贅沢を見逃す手はありません。
その記念公演で小源丸師匠が選んだ演目は、「竹の水仙」。
な~るほど、浪曲の定席、木馬亭という小屋にあわせて、浪曲河内音頭としたわけですね。
竹の水仙は、名工・左甚五郎のもっとも有名な伝承話。
浪曲では京山幸枝若が得意とするネタで、落語でもよく取り上げられていますよね。
小源丸師匠は、円熟を極め尽くした味のある語りで、
左甚五郎のひょうひょうとした人物像を演じていました。
いやぁ、やっぱりこれは踊っていたら、なかなか味わえるもんじゃありません。
その軽妙な語り口にぐいぐい引き込まれてしまって、夢中にさせられました。
ほんと、素晴らしかったです。
師匠の語り口とともに感激したのが、日乃出家源司の太鼓。
抑えに抑えたバチさばきに、ゾクゾクしました。
シンコペーションを利かせたリズムで胴を軽やかに叩き、
皮の打面を打つのは必要最小限だけという、簡潔なスタイル。
胴を叩くリズムのニュアンスが実に豊かで、
ひょいと裏拍のリズムに転じてみせる技巧に、ウナりました。
最初に出演した日乃出家富士春のバックで叩いていた時から、
その<打たない太鼓>ぶりに感じ入って、上手いなぁ~と聴き入っちゃいましたよ。
抑制が利いているからこそ、緩急のダイナミクスがスゴくて、一打一打に無駄がない。
河内音頭のグルーヴ・マスターですね。
終演後、出来上がったばかりという、
小源丸師匠の90年代から00年代初頭の私家録音を編集した4枚組CDをいただいてきました。
ブックレットの印刷が間に合わず、印刷所から木馬亭に直に届けられたのを、
公演中にスタッフが総出で封入し、終演後の販売になんとかこぎつけたんだそう。
タイトルに「十三夜」とあるとおり、
これほど広範なレパートリーを演じ分けられる音頭取りは、
小源丸師匠を置いて他にはいないでしょう。
70年を越す音頭歴を刻んできた小源丸師匠の名調子を、
これでいつでも、じっくりと楽しめます。
日乃出家小源丸 「河内音頭奔流 日乃出家小源丸十三夜」 ミソラ MRON3005