映画のワン・シーンのような印象的なジャケット。
サウンドトラックかと見紛うのは、
コロンビアのヴェテラン・ポップ・シンガー、カルロス・ビベスの新作です。
『クンビアーナ』という魅力的なタイトルに、ソッコーいただいてまいりました。
カルロス・ビベス、いい男ですねえ。
もとはロック・シンガーからスタートした人ですけれど、
バジェナートの先達に敬意を表して、オールド・スクールなバジェナートを
真正面から取り組んだアルバムを93年に出すと、
その後オーセンティックなバジェナートをアップデートして、
オシャレな若者でも楽しめるポップスに仕上げ、一躍不動の人気を勝ち取りました。
新作は、バジェナートではなくクンビアをテーマに、
クンビアで使われる笛や太鼓などの楽器に、
アコーディオンやブラスバンドなどをまぶしながら、
親しみのあるトロピカル・ポップに仕上げています。
クンビアの田舎臭さを嫌うヒップ・ホップ育ちの若者でも抵抗なく聞けるよう、
アルバム全体をレゲトンのビートで貫きながら、
はしはしでデジタル・ビートから生音の太鼓のアンサンブルへと
シームレスに繋ぎ、両者を違和感なく聞かせています。
そうしたリズム処理や、クンビアのメロディやサウンドを巧みに散りばめるところは、
まさにコロンビア人のハートをつかむ手練といえます。
レゲトンばかりでなく、ヒップ・ホップ/R&B、ラガマフィン、フラメンコ、サルサを
フィーチャリング・ゲストを迎えながら取り入れるところも、
ポップスのツボを知り尽くしたビベスならではの手腕ですね。
ゲストにルベーン・ブラデス、ジギー・マーリー、
スペインのアレハンドロ・サンスのほか、
コロンビア系カナダ人シンガーのジェシー・レジェスに、
プロビデンシア島出身のエルキン・ロビンソンが参加しています。
ルベーン参加のクンビア・サルサは、なかなかの聴きものです。
アルバム・ラストは、エレクトロにクンビアの笛(ガイタ)を絡ませたインスト曲で、
クンビア・アンビエントとでも呼びたい仕上がり。
笛はちゃんとクンビアの伝統形式にのっとって、ベース・ラインを吹く笛、
メロディを吹く笛、即興を奏でる笛の三重奏を、多重録音で作り出していますよ。
コロンビアのフォークロア愛を溢れさせる、ラテン・ポップスの大スターが、
ヒット曲を生み出す職人的手腕も十二分に発揮した、会心のアルバムです。
Carlos Vives "CUMBIANA" Sony Music Latin 19439775642 (2020)