ひん曲がったリズムで、アブストラクトな音列を並べるテーマに、はや昇天しかけていると、
痙攣するようなリックをがしがしと弾き倒すギターが畳みかけてきて、
その圧倒的なブラック・パワーには、ただただひれ伏すほかありませんでした。
81年にジェイムズ・ブラッド・ウルマーと出会ったのは、
自分の音楽人生の中でも、一二を争う強烈な体験だったことは間違いありません。
ラフ・トレードというポスト・パンクのレーベルからアルバムが出たのも必然で、
むしろその後、メジャーのコロンビア・レコードに移籍したことの方が、ビックリもの。
コロンビアがウィントン・マルサリスに先んじて、ウルマーやアーサー・ブライスを
手がけていたというのは、今思えば先見の明があったと思うけど、
セールスが思わしくなければバッサリ切り捨てるメジャーの非情で、
ウルマーはたった3枚でクビになっちゃいました。
でも、そのコロンビアの2作目、82年の”BLACK ROCK” が、
ウルマーの一大傑作でしたからねえ。
今回、オランダのリイシュー専門レーベルがCD化して、LPと変わらぬ音質に大カンゲキ。
20年以上前に日本でCD化したことがあるんだけど、その日本盤は、
霞がかかったような音質だったんだよなあ。
それだけに今回のCD化は、嬉しさひとしおです。
ただ、何度も聴いて気付いちゃったんですが、このCD、盤起こしなんですね。
‘Family Affair’ のイントロのギターで、軽いプチ音が聞こえます。
ヘッドフォンでなければわからない程度なので、
気付かない人がほとんどだと思いますけれど。
フェイド・アウト処理なども丁寧にしているので、これなら盤起こしでも不満はありません。
本作は、ミュージック・レヴェレイション・アンサンブル名義の“NO WAVE” や、
“ARE YOU GLAD TO BE IN AMERICA?” のフリー・ジャズ/ファンク路線はそのままに、
ロナルド・シャノン・ジャクソンから、
カルヴィン・ウェストンとコーネル・ロチェスターのツイン・ドラムに
交替しています。これにより、ロック的なビートが強調され、
ジャズにカテゴライズされることを抵抗した、タイトルどおりの内容となりました。
ウルマーが弾きまくる曲ばかりでなく、ウルマーがバックに回り、
ロナルド・ドレイトンのソリッドなリズム・ギターを前面に出す曲あり、
フルートが不穏なムードを醸し出す曲など、アレンジも多彩。
コロンビアの1作目の“FREE LANCING” ではバッキング・ヴォーカルだった
アイリーン・ダッチャーが、2曲でリード・ヴォーカルを務め、
ウルマーと夫唱婦随を聞かせるのがハイライトです。
“FREE LANCING” とリズムのウネリがケタ違いになったのは、
ロックを志向したからという、単純なストーリーではありませんね。
ジャズを解体した前衛的手法で、ブルースやゴスペルにさかのぼる、
ブラック・ミュージックの原初的なエネルギーを呼び覚ましたからでしょう。
ブラック・ジャズのフィジカルの強さを仰ぎ見る、歴史的傑作です。
James Blood Ulmer "BLACK ROCK" Music On CD MOCCD14019 (1982)