南ア・ジャズの力作が続々届きますね。
ジョハネスバーグ出身のトロンボーン、ピアノ、ドラムスのマルチ奏者、
マルコム・ジャネ率いるツリー=オーの初アルバムです。
先月記事にしたトゥミ・モゴロシのアルバムと同じ新興レーベル、
マッシュルーム・アワー・ハーフ・アワーからリリースされました。
マルコム・ジャネは、マッシュルーム・アワー・ハーフ・アワーから、
76年ソウェト蜂起をドキュメントした映画“UPRIZE!” のサウンドトラックを、
SPAZAの名義で20年に出しています。
“UPRIZE!”制作の折、マッシュルーム・アワー・ハーフ・アワーの
プロデューサーが、18年にレコーディングしたまま眠らせていた
本作の音源の存在を知り、リリースを即決したのだそう。
ツリー=オーは、ピアノ、ベース、ドラムス、トランペット×2、アルト・サックス、
パーカッションの7人編成。パーカッションは、シャバカ・ハッチングスの
ジ・アンセスターズでも活躍するゴンツェ・マケネです。
全5曲、マルコム・ジャネの作編曲で、
マルコムの個人的な状況を反映した、スナップショット的作品となっています。
オープニングの‘Senzo seNkosi’ が暗示するとおり、
アルバム全体を静謐なトーンが覆っています。
レクイエムのように聞こえる‘Senzo seNkosi’ は、
亡くなったマルコムの親友で、ツリー=オー結成当初のベーシストに捧げられた曲。
音色に感情があり、物語性を帯びたアレンジの描写力が胸に刺さります。
続く‘Umkhumbi kaMa’ も1曲目同様、静かに始まり、
やがてアンサンブルがしなやかに躍動していく曲。
トロンボーン奏者の大先達ジョナス・グワングワに捧げた
‘Ntate Gwangwa's Stroll’ はブルース調の曲で、ホッとするような明るさがあります。
といっても、アンサンブルはにぎやかになるどころか、
音数を極度に抑えたアレンジが施されているんですね。
最後に、トランペットと一緒にマルコムがチャントする場面で、
ほのかなレイジーなムードが香り、穏やかな温かみが伝わってきます。
アルバム終盤の2曲‘Life Esidimeni’ と‘Moshe’ に至って、
ようやく南ア・ジャズらしい解放的なアンサンブルに代わって、
それまでの静謐で音数少なく抑制されていたアンサンブルが、
一気に解放され、自由奔放さ発揮します。
マルコムのパーソナルな着想によって生み出された作品ながら、
アパルトヘイト時代を経て共有されてきた南ア黒人たちの歴史が、
静かに横たわっているのを強く感じさせるアルバムです。
Malcolm Jiyane Tree-O "UMDALI" Mushroom Hour Half Hour M3H009CD (2021)