こりゃ、たまりません。
頭クラクラ、みぞおちモヤモヤの、トロける南洋熱帯歌謡は、
インドネシア、メダンの女性歌手ヌル・アシア・ジャミルが歌うカシーダです。
それにしてもこのサウンド、ターラブそのものじゃないですか。
東アフリカ沿岸部のスワヒリ文化が育んだのがターラブなら、
マラッカ海峡を挟んだスマトラ島とマレイ半島のムラユ文化が育んだのが、カシーダ。
インド洋の西端と東端で奏でられてきたイスラム系音楽がそっくりという不思議さ。
アラブ文化が海を越え、流れ着いた果てで、同じように変容するなんて。
ヌル・アシア・ジャミルのレコードは、
80年代のオルガンやエレクトリック・ギターなどが入った
カシーダ・モデルン(「モダン・カシーダ」の意)・スタイルのアルバムが
これまでCD化されていましたけれど(上の2枚)、
今回手に入れたのは、それよりずっと前の、70年代録音のものと思われます。
まだオルガンは使われておらず、アコーディオンがその役を担っています。
不揃いのヴァイオリン・セクションが鄙びた音色を奏で、
ルバーナとベースが淡々とリズムを刻み続けるなかを、
主役の女性歌手と女性コーラスが、淋しげなメロディを紡いでいくように歌うと、
どこか人生の諦念を感じさせるような思いがするのは、ぼくだけでしょうか。
ガンブースや笛もアクセントとしてフィーチャーされ、
ノスタルジックなエキゾ歌謡、ここに極まれり。
カシーダはこの時代の録音が最高じゃないですかね。
身体にへばりつくような潮風のじっとりとした湿気を感じるサウンドが、もうたまりません。
H. Nur Asiah Jamil "LAGU LAGU GAMBUS BAND O G EL BAHAR" Life WCD0283
H. Nur Asiah Jamil "PANGGILAN KA’BAH" Life MIK6001
H. Nur Asiah Jamil, Rusnah, Hikmah "QASIDAH MODERN" Life MIK6003