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トニー・アレンのビートに追い付いたジャズ

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Tony Allen The Source.jpg

トニー・アレンがアート・ブレイキーのトリビュート盤EPを
ブルー・ノートから出すという話を聞いた時は、
これは面白い企画を考えついたもんだなあと期待したんですが、
出来上がりは、予想に反し平凡な仕上がりで、ちょっと肩すかしでした。

トニー・アレンのドラミングは、古いハードバップ・スタイルまんまなところがあるので、
アート・ブレイキーをやるならバッチリと思ったわけなんですけど、
世間では、そんなふうにトニー・アレンを聴いている人はいないようで、
前にもピーター・バラカンさんのラジオ番組でそんな話をしたら、
ピーターさんもすごく意外そうな反応を示されたもんなあ。

でもねえ、言っときますけど、トニー・アレンって、フェラ・クティと活動する前は、
ジャズ・ドラマーだったんですからね。
だいたいトニー・アレンと出会った当時のフェラからして、
まだジャズに夢中になっていた時代で、
アフロビートを作り出すのは、もっとずっと後のことだったんですよ。

というわけで、せっかくブルー・ノートからリリースするのなら、
ジャズ・アルバムを作ればいいのにと思っていたので、
新作はまさに願ったりの作品に仕上がっていたのでした。
いやあ、これ、アレンのソロ作としては、
02年の“HOMECOOKING” 以来の大傑作じゃないですか。
あのアルバムとは、ぜんぜん性格が違いますけれども。

オープニングのチューバ、トランペット、サックスの合奏から、
いきなり引きこまれましたよ。
まるでギル・エヴァンスみたいなサウンド・オーケストレーションじゃないですか。
バックはどうやらフランス人ミュージシャンのようなんですが、
知っている名前が一人もいな~い。
トニー・アレンと並んで作編曲のクレジットに名を連ねている、
ソプラノ・サックス奏者のヤン・ジョンキエレヴィックスが、
どうやらキー・マンのようです。

オープニングの“Moody Boy” ばかりでなく、“Cruising” のホーン・アレンジにも、
ギル・エヴァンスの影響がはっきりと聴き取れますよ。
デューク・エリントンのオーケストレーションも、研究していそうだなあ。
5管編成のホーン・セクションの面々は、いずれも相当な実力者とみえ、
ダニエル・ジメルマンの呻くようなトロンボーン、
ジャック・イランゲのナマナマしいテナー・サックスには、耳をしばだてられます。
こういう管楽器の肉声を感じさせる鳴らしっぷりが、ぼくは大好物なんですよ。

達者なジャズ演奏などにするのではなくて、
ジャン=フィリップ・デイリーのピアノが転げまわったり、
ジャズ・マナーではないアフリカンなリズムを刻むギターを起用するところも、
トニー・アレンのドラミングとの相性をちゃんと考えていますよね。
ちなみに、このギタリスト、アンディ・ディボンゲはカメルーン人とのことで、
フランス人じゃないのは、この人だけなのかな。

ムラトゥ・アスタトゥケを連想させる“Bad Roads”、
トランペット・リフがディジー・ガレスピー・オーケストラを思わせる“On Fire”、
ニュー・オーリンズのマーチング・バンドのサウンドを借りたような“Push and Pull”
マイルズ・デイヴィスがアフロビートをやってるみたいな“Ewajo” など、
曲ごとにおおっと思わせる仕掛けが凝らされたアレンジに、脱帽です。

それでいて、アルバムを通して、アレンのドラミングを浮き彫りにした統一感があり、
ヴァーサタイルなミュージックとなった現代ジャズとしても、一級品の作品。
トニー・アレンのキャリアとしても、最高のセッションになりましたね。
ようやくジャズが、トニー・アレンのビートに追いついたんですよ。

Tony Allen "THE SOURCE" Blue Note 5768329 (2017)

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