いいなあ。
マルチニークの村の公民館で演奏しているのを、
そのまんまレコーディングしたような飾り気のなさ。
こんな普段着な地元仕様の音楽は、案外CDでは聞けないので、
これはなかなかに貴重なアルバムだと思います。
キュイーヴル・エ・ボワ・デベンヌ音楽学校で教授を務める
ギュスターヴ・フランシスクは、マルチニークの伝統音楽を演奏する
マルチ管楽器奏者。表紙写真ではテナー・サックスを持っていますが、
クラリネットやアルト・サックスも吹いています。
ビギン、マズルカ、ヴァルスといったレパートリーに加え、
オート・タイユを取り上げてるところが珍しいですね。
なんせ、シュリ・カリ著『カリブの音楽とダンス』にも、
「マルティニークに関しては、今日までに録音されたオート・タイユの作品は、
ほとんどと言ってよいほど存在しない」と書かれているほどで、
ぼくもオート・タイユとクレジットされた曲を聞いたおぼえがありません。
聞いてみると、ヨーロッパ起源の舞曲カドリーユとよく似ていて、
オート・タイユとどう違うのか、よくわかりませんでした。
本作には、46年創立のマルチニークのグラン・バレエに捧げられた、
アル・リルヴァ作曲のオート・タイユに、バレル・コペ作曲のオート・タイユ、
さらにもう1曲、計3曲のオート・タイユが演奏されています。
タイトルに『先人に捧ぐ』とあるとおり、
他のレパートリーでは、レオナ・ガブリエルの名曲ビギン・メドレーに、
アレクンサンドル・ステリオのマズルカ・メドレー、
ルイス・カラフとエディ・ギュスターヴ共作のメレンゲを演奏しています。
リズム・セクションがアマチュアぽく聞こえる曲などもあり、
ひょっとして、音楽学校の生徒さんが演奏しているのかもしれません。
5年前に同じレーベルから、キュイーヴル・エ・ボワ・デベンヌ名義で、
音楽学校の生徒さんらしき、女性3人のクラリネット奏者のCDが
出ていたことがあったもんね。
演奏者のクレジットがないので、勝手な想像ではありますが、
曲により伴奏の巧拙が大きく感じるのは確か。
すごくヴェテランぽいプレイを聞かせるピアニストがいる一方、
リズムをキープするのがやっとなドラマーもいたりして、
アマチュアが緊張しながら一所懸命演奏しているふうなところなど微笑ましく、
ぜんぜん悪い印象はありません。
そんなアマチュアぽさが、音楽を風通しよくしていて、
マルチニークの伝統舞曲をカジュアルに聞かせる好作品に仕上げています。
Gustave Francisque "HOMMAGE À NOS AINÉS" Granier Music ZM20171-2 (2017)