こりゃ、驚き。
ベンクト・ベリエルの87年作“PRAISE DRUMMING” が、
オリジナル原盤所有のスウェーデンのレコード会社から、まさかのCD化。
「ベングト・ベルガー」と書かれることがもっぱらな
ベンクト・ベリエルは、スウェーデン人ジャズ・ドラマー。
二十代の時、インド音楽を学びたくて、65年に北インドをヒッチハイクしてタブラを習い、
68年には南インドへ出かけ、ムリダンガムを修得したという無類の民俗音楽好き。
70年代に入るとアフリカ音楽へ関心を寄せ、75年から77年にかけてガーナに滞在し、
カクラバ・ロビからコギリ(木琴)を学んだという、ユニークな経歴のジャズ・マンです。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-10-01
ベンクトがECMから82年に出した“BITTER FUNERAL BEER” は、衝撃でした。
それまで、いわゆる「アフロ・ジャズ」と称するジャズ・ミュージシャンによる
アフリカ音楽もどきのでたらめぶりにウンザリしていたので、
非アフリカ人による初の本格的なアフリカン・ジャズ作品となった
本作には目を見開かされ、大カンゲキしたものです。
なんせベンクト・ベリエル登場以前のアフリカン・ジャズは、
「まがいもののアフリカ音楽」だらけでしたからねえ。
ジョン・コルトレーンからシカゴ前衛派に至るまで、
60年代にアフロ回帰の思想で産み落とされた作品は、
すべて観念上の想像の産物にすぎませんでした。
アート・ブレイキー、ランディー・ウェストン、トニー・スコット、渡辺貞夫など、
アフリカ人ミュージシャンと共演した人も一部にはいましたが、
アフリカ音楽の構造やポリリズムを理解し、体得した人は、皆無でした。
それだけに、この“BITTER FUNERAL BEER” は、ほんとに画期的だったんですよ。
“BITTER FUNERAL BEER” の録音にあたって、
ベンクトはメンバーのスウェーデン人ミュージシャンたちに、
ガーナで学んだ伝統音楽のリズムやアフリカ音楽の曲構造を、
徹底的に教え込んだんでしょうね。非アフリカ人だけで、
これほど本格的なアフリカン・ジャズを作り上げたことに感服しますけれど、
単に模倣に終わるのではなく、北欧ジャズならではの管楽器による高度な即興演奏もあり、
ワールド・ジャズともいうべきその完成度の高さは、いまなお新鮮です。
今回30年ぶりとなるCD化で、
ひさしぶりに“PRAISE DRUMMING” を聴き直しましたけれど、
うん、やっぱりこれも傑作ですね。
アフリカ音楽の持つクールネスが、北欧ジャズのクールネスと絶妙に融合していますよ。
“BITTER FUNERAL BEER” をさらに発展させて、
アフリカ音楽ばかりでなく、インドネシアのバリのメロディをモチーフとするなど、
オリエンタルな要素も加えて、さらに魅力が倍化しています。
日本では名前すらまともに書かれないぐらいの人なので、
ご存じない方が多いのかもしれません。ぜひ聴いてみてください。
Bengt Berger & Bitter Funeral Beer Band "PRAISE DRUMMING" Dragon DRCD449 (1987)
Bengt Berger "BITTER FUNERAL BEER" ECM 839308-2 (1982)