おぉ、ノーマン・グランツのもとでレコーディングした時代のスリム・ゲイラードの録音が、
ついに集大成されましたか。スリム・ゲイラードが本国アメリカで
きちんと再評価されるまで、本当に時間がかかりましたよねえ。
アメリカでの再評価のはじまりといえば、
94年にクレフ~ノーグラン~ヴァーブ時代の録音をまとめた
“LAUGHING IN RHYTHM: THE BEST OF THE VERVE YEARS” でしたもんね。
その時点で、半世紀近く経ってたんだからねえ。
それ以前はといえば、イギリスのヘップやスウェーデンのタックスといった、
アメリカ国外のコレクター・レーベルがまとめた編集盤しかなかったんだから。
ぼくがハタチの頃にスリム・ゲイラードを知って夢中になったのも、
そうしたヘップ盤やタックス盤に出会ったからで、
クレフ~ノーグラン~ヴァーブ時代の録音は、
ジャズ専門店でオリジナルの10インチ盤を探し出すまで、ずっと聴けませんでした。
アクの強いヴォードヴィリアン的体質を持つゲイラードが、
ジャズを娯楽音楽ではなく、芸術音楽として聴くジャズ・ファンに嫌われたのは、
無理もない話ではありましたよね。
チャーリー・パーカーとディジー・ガレスピーをサイドメンに録音した人物といったって、
あやしげなインチキ外国語を操って聴く者をケムに巻くところは、
毒々しかったデビュー当時のタモリみたいなもんで、
コルトレーンを信奉する真面目なジャズ・ファンのお気に召すはずもなく。
日本でゲイラードを最初に評価したのはブルース・ファンで、
ルイ・ジョーダンなどのジャンプ・ミュージックに注目が集まるようになった流れで、
ブラック・エンタテインメント・ミュージックとして、
ジャイヴ・ミュージックに光が当たったんでした。それも40年も昔の話。
ジャズ専門店でスリム・ゲイラードのオリジナルを探すようになったのは、
社会人になってからで、5~6年かけて買い揃えたんだっけなあ。
56年のヴァーヴ盤LP“SMORGASBORD…HELP YOURSELF” を
やっと見つけた直後に、日本盤LPが出たのは、ちぇっ、とか思ったけど。
今回の2枚組CDには、ぼくも聞いたことのないシングル曲や
没テイクもたんまり入っていて、ひさしぶりにゲイラードの芸を堪能しました。
黒人の知性が宿るのは深刻ぶったジャズなどではなく、
こうした高度なお笑い、黒人のサブ・カルチャーの伝統に根差した、
ジャズ演芸にこそあったのだと、しっかりと再確認させてもらいましたよ。
Slim Gaillard "GROOVE JUICE: THE NORMAN GRANZ RECORDINGS + MORE" Verve B0027591-02
[SP Abum] Slim Gaillard and Bam Brown "OPERA IN VOUT"Disc (US) 505
[SP Box] Slim Gaillard and Bam Brown / Meade Lux Lewis
"OPERA IN VOUT / BOOGIE WOOGIE AT THE PHILHARMONIC" Mercury 11033/11034
[10インチ] Slim Gaillard "SLIM GAILLARD PLAYS" Allegro 4050
[10インチ] Slim Gaillard "MISH MASH" Clef MGC126
[10インチ] Slim Gaillard "CAVORTS" Clef MGC138
[10インチ] Slim Gaillard and His Musical Aggregations "WHEREEVER HE MAY BE" Norgran MGN13
[LP] Slim Gaillard "SMORGASBORD…HELP YOURSELF" Verve MGV2013 (1956)
[LP] Slim Gaillard "RIDES AGAIN!" Dot DLP3190 (1959)