ああ、ようやっと手に入りました。
エジプト最高のフィメール・シンガー、アンガームの新作。
15年の復帰作から3年ぶりとなった昨年の前作“RAH TETHKERNI” は、
リシャール・ボナ、ヴィクター・ウッテン、ルイス・コンテなどが参加した
アメリカ録音を含むアルバムで、新たにハリージにも挑戦した意欲作となっていました。
ところが、これが入手できなくってねえ。
なんとか手に入れようと、四方八方手を尽くしたんだけど、とうとう実らず。
ロターナがフィジカル生産に後ろ向きなのは承知しているものの、
アラブ世界のトップ・スターの新作すら、まともに流通しないんだから、ヒドいもんです。
きっと関係者に見本盤を配るわずかな数くらいしか、いまやCDは作ってないんだろうなあ。
結果、ロターナのCDは、アラブのお金持ちのマニアにしか行き渡らず、
一般庶民はダウンロードかストリーミングで聞けってか。しくしく。
19年の新作もまたダメかなあと思っていたので、
レバノンのお店から、「あるよ。」のメールをもらった時は、小躍りしてしまいました。
アルバムのっけから、アンガーム節が炸裂。
アンガームの十八番、ほろほろと泣き崩れるようなメリスマが冴えわたります。
エジプト・トップ・クラスの歌唱力をこれでもかと見せつけるかのように、
ヴォーカルを伴奏からくっきりと浮かび上がらせたミックス・バランスが絶妙です。
若い頃は、その高すぎる歌唱力が
かえって情感を損なうマイナス面もあったアンガームですけれど、
いまやその熟したメリスマが、
切ないオンナ心を十二分に伝える最強の武器となっていますね。
新作はハリージなどの新趣向はなく、
カーヌーン、ヴァイオリン、ダルブッカが舞う王道のアラブ歌謡から、
ルンバ・フラメンカ調など、バラエティに富んだポップなシャバービー路線。
ダンス・トラックを排し、じっくりと歌を聞かせる
アダルト・オリエンテッドなシャバービーに仕上がっています。
かつてのクラウス・オマーガンを思わすストリングス・オーケストレーションにも、
うっとりさせられますよ。
今作のプロデューサーは、
アンガームと結婚したばかりの新しい夫、アフメド・イブラヒム。
アラビア文字だらけのライナーの中で、数少ないアルファベットで
「スペシャル・サンクス」「ミュージック・プロデューサー」
「アフメド・イブラヒム」と大書きされた文字が、ひときわ目立ちます。
以前、結婚した途端に浮気が発覚した2番目の夫とも結局離婚して、
今度が3度目の結婚になったわけですけれど、はや暗雲が立ち込めているようですねえ。
アンガームの新しい夫アフメド・イブラヒムが、
既婚者で子持ちであったことを公表せずに、二人の結婚が発表されたことに、
エジプトのメディアは非難を集中。しかもアフメドの前妻が、
アンガームと親しいシリアのトップ歌手アサラの夫の姪だったことが発覚し、
二人の友情にヒビが入ることも懸念されている模様です。
さらに、アンガームがアーメッドに送った
バースデイ・レターの写真がネットに晒されたりと、
相変わらずスキャンダルに事欠かないアンガームなのでありました。
Angham "HALA KHASA GEDEN" Rotana CDROT2028 (2019)