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セリア・クルースのアフリカン・ポップ・カヴァー アンジェリク・キジョ

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Angelique Kidjo  CELIA.jpg

アンジェリク・キジョの『リメイン・イン・ライト』には、本当に驚かされました。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2018-10-13
アンチ『リメイン・イン・ライト』のぼくにとっては、「瓢箪から駒」以上の、
「ウソから出たマコト」クラスの衝撃でしたよ。
あの偽アフロ音楽を、ホンモノのアフリカ音楽が奪還してみせた痛快さといったら。
まさしく、アフリカがロックを取り返した象徴的作品でした。
キジョの作品を、まさか自分の年間ベストに選ぶことになるとは
想像だにしませんでしたけど、なんのためらいもありませんでしたからね。

その『リメイン・イン・ライト』に続き、今度のテーマはセリア・クルースとは、
なーるほど、これまたいいところに目を付けたもんだ。
セリア・クルースが歌ったサンテリーアの曲なら、
ベニン生まれの彼女に格好の選曲となるし、
セリア・クルースのような強い声をカヴァーできるシンガーといったら、
たしかにアンジェリク・キジョぐらいしか、見当たりませんよねえ。

かつてのディアスポラ3部作にせよ、『リメイン・イン・ライト』にせよ、
キジョはよくよく鼻が利くというか、企画先行の作家タイプですねえ。
音楽家としてよりも、そういう政治性を感じさせる立ち回りが、
あいかわらず油断ならんという気分にさせられるんですが、
題材がセリア・クルースとあっては、ますます警戒心が高まります。
なんたってセリア・クルースは、ぼくにとって音楽の女神さまですからね。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-07-15

でも、こうして記事を書いていることからもおわかりのとおり、面白い作品となっています。
批判するくらいなら、ガン無視するのが、このブログの基本ですので、はい。
キジョなら、セリア・クルースに歌の強度で迫ることができるだろうことは認めつつも、
しなやかさがまるでないキジョのヴォーカルが、
あのバツグンの跳躍力を持つセリアの歌声に、どれほどまで迫れるのかが、
聴く前の関心事でした。

これが案外、面白い聴きものとなっているんですね。
キジョのヴォーカルはやっぱり硬いし、
セリアのダイナミクスとは比べようもありません。
それでも、十分健闘していると好感を持てるのは、
バックの演奏との有機的な絡み合いにありました。

前回の『リメイン・イン・ライト』では2曲のみの起用だったトニー・アレンが、
今回は全面参加。近年のスウィング感たっぷりのジャズ・マナーなドラミングが、
セリアのヴォーカルが持つ柔軟性をサウンド面から作り上げているんですね。
ゆるやかなアフロビートとコンゴリーズ・ルンバをミックスした、
ふくよかなグルーヴに揺れるオープニングの‘Cucala’ から、存分に発揮されています。

トニー・アレンのドラミングって、
先日の来日公演でもあらためて思いましたけれど、すごく古臭い。
フィル・インの使い方やシンバル・レガート、スティックの持ち方だって、
ファンキー・ジャズ時代のアート・ブレイキーみたいな古いスタイルなのに、
テクノと共演しても親和性のある柔軟さがスゴいというか、アレン・マジックといえます。

トニー・アレンと並んで光るのが、トーゴ人ギタリストのアメン・ヴィアナ。
キング・メンサーの来日公演でそのユニークなスタイルに感心しましたが、
ここでも冴えたギター・ワークを聞かせています。
キジョとバック・コーラスをしたりと、今作でのアメンの貢献度は大ですね。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-05-27

そして、ベニンのガンベ・ブラス・バンドも活躍していますけれど、
UKジャズ話題のシャバカ・ハッチングスとサンズ・オヴ・ケメットが参加していて、
シャバカの切れたサックス・ソロが聴きものとなっています。
ほかに、ミシェル・ンデゲオチェロがベースを弾いているのにも、
話題が集まりそうですけれど、目立ったプレイは特になし。
手数の多いアレンとのドラミングと彼女とでは、ちょっと持ち味が違ったかも。

いずれにせよ、キューバン・サウンドを範とせず、
ユニークなアフリカ・サウンドでセリア・クルースの名曲をカヴァーしつつ、
歌そのものはメロディもいっさいいじらずに歌った本作、ぼくは面白く聴きました。
こうして聴いてみると、案外キジョの歌の強度はそれほどでもないというか、
かえってセリア・クルースの歌の、とてつもない強度を再認識させられましたね。
屈伸から大きくジャンプするバレーボール選手の身体の動きを見るかのようで、
そのダイナミクスの大きさとともに、その圧倒的なバネの強さにも、
あらためてセリア・クルースのスゴ味を思い知らされる、キジョの新作でした。

Angelique Kidjo "CELIA" Verve 7744498 (2019)

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