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西洋人を前にした初ライヴ・パフォーマンス ヌスラット・ファテ・アリー・ハーン

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Nusrat Fateh Ali Khan  Live at WOMAD.jpg

ヌスラット・ファテ・アリー・ハーンを知ったのは、
82年の2枚組LP“MUSIC AND RHYTHM” に収録された1曲がきっかけでした。
このレコードは、ブルンディ・ドラムに始まり、
ホルガー・シューカイの‘Persian Love’ で締めくくられる、
伝統音楽から最新のポップ音楽まで21組のアーティストを収録したコンピレーション。
ワールド・ミュージック(当時まだその言葉はなかったけれど)の祭典
ウォーマッドがここからスタートした、記念碑ともいうべきアルバムでしたね。

で、このレコードでぶったまげたのが、ヌスラットだったのです。
カッワーリーそのものも初体験なら、
これが宗教音楽だというのだから、ビックリさせられました。
ヌスラットとコーラスが丁々発止の即興で掛け合うインプロヴィゼーションは、
ジャズのスリリングなインタープレイと全く変わることのない興奮を巻き起こします。
手拍子とコーラスとともに高揚していく、そのテンションの高さに圧倒され、
この1曲でヌスラットの名前は、ぼくの脳裏にしっかと刻み込まれました。

Nusrat Fateh Ali Khan  En Concert A Paris.jpg

それからだいぶ間が空き、87年の春になって、
ようやく待望のヌスラットのアルバムが出たんですね。
フランスのオコラから出たパリのライヴ盤は、期待にたがわぬ素晴らしい内容で、
連日のヘヴィ・ロテ盤となりました。そんなさなかの9月、
ついにヌスラット一行が初来日してくれたのです。

「アジアの神・舞・歌」と題する国際交流基金が招聘したコンサートで、
会場は国立劇場でしたね。ヌスラットの単独公演ではなく、
トルコのメヴレヴィー教団の旋回舞踏や雲南省の歌舞、アイヌ古式舞踏との
抱き合わせ企画だったんですが、ヌスラットのパフォーマンスは飛び抜けていました。
84年、キング・サニー・アデのライヴ以来の衝撃でしたよ。

ヌスラットのソロからコーラスに移って、ぐんぐんと盛り上がっていく場面や、
歌がすっと消え、場面を暗転させるように、タブラと手拍子のリズムだけになる
瞬間のスリリングさ。はたまた、ヌスラットがコーラスに割り込んで即興する
手に汗握る場面など、絨毯の上に座した男たちが、両手を広げたり、手のひらを
さまざまに動かしながら歌う、初めて見るカッワッリーのパフォーマンスに
目を見張りましたよ。
ダンス・ミュージックではないから、シートで大人しく座っていたわけですけれど、
観ているだけでも血沸き肉躍ってしまって、
身体が熱く火照って、どうしようもありませんでしたね。

その後、ヌスラットたちは何度も来日して、
五反田のゆうぽうとや横浜のウォーマッド(ヌスラットが立ち上がって歌い、
サンディーがひれ伏したあのライヴです)でも観ましたけれど、
やはり87年の国立劇場での衝撃がなんといっても一番です。

さて、今回34年ぶりに陽の目を見た、
85年の第1回ウォーマッドでのライヴ・パフォーマンスは、
ヌスラット一行が初めて西洋の観客の前でやったもの。
オコラ盤のパリ・ライヴの4か月前となる、7月20日深夜にレコーディングされました。
言葉の通じない、ましてや宗教も異なる西洋人を前でも、ヌスラットにアウェイ感などなく、
ダイナミックな即興のパフォーマンスと変幻自在なリズム使いで、観客を圧倒します。

のちにヌスラットが、西洋人の前では、
リズムを強調して歌うとインタヴューで答えていたように、
聴衆の反応を見ながら、当意即妙に場を作り上げていくパフォーマーとしての才能は、
パキスタンの霊廟で歌うカッワールにはない、類まれなる資質を示すものでした。

Nusrat Fateh Ali Khan & Party "LIVE AT WOMAD 1985" Real World CDRW225
Nusrat Fateh Ali Khan "EN CONCERT A PARIS VOL.1" Ocora C.558658 (1987)

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