いまオロモ人にもっとも影響力のある歌手といわれるアブッシュ・ゼレケ。
R&B色の強いコンテンポラリー・サウンドの
エチオピアン・ポップを歌う歌手として、ただいま人気沸騰中。
新作では、オロモ色を強調しないエチオピア全方位のリスナー向けアルバムとなっていて、
カラフルなレパートリーが魅力。ダンスホール・レゲエの影響色濃いサウンドは、
イマドキのエチオピアのトレンドに沿ったものとなっています。楽曲もツブ揃いで、
アブッシュのスムースなヴォーカルは、イキの良さが感じられて、スッキリ爽やか。
オロモのアルバムというと、全編どすこい・ビートというのが多くて、
単調に感じることもあるんですけれど、本作はそれにはあてはまりません。
オロモの特徴的なリズムの曲は1曲のみで、
その曲だけオロモ語で歌っているようですね。、
ほかはすべてアムハラ語で歌っていることに、
オロモ民族主義者から、早速批判されているそうです。
う~ん、なるほど、そういう急進的な民族主義者も多いから、
オロモのアルバムって、全編どすこい・ビートになっちゃうのか。
アブッシュ・ブレケは、そういう自民族中心主義には反対の立場を表明していて、
インタヴューなどでも、宗派を超えて融和することが大事だと主張しています。
そんなアブッシュの姿勢が、本作にもよく表れていて、
エチオピアのカラフルなフォークロアに、レゲエ/ラガやR&B、
ヒップホップのセンスを兼ね備えた、
現代性に富んだポップスが生み出されているわけですね。
人力のドラムスやホーン・セクションの生音使いを強調したトラックと、
ヒップホップ/ラガの打ち込みを活かしたダンス・トラックと、
くっきり使い分けたプロダクションが、いいバランスを保っています。
ギター、ベースの聞かせどころもしっかりあって、コーラス・アレンジの上手さなど、
アレンジ面でも若い才能が伸びてきたのを実感できる一枚です。
Abush Zeleke "HID ZEYIRAT" Hobinet Media no number (2019)