ヤズ・アハメドの前作は、何度か聴くうちに、
オリエンタリズムむき出しの楽想がだんだん鼻についてきて、
記事にしたことをちょっと後悔していました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-02-23
出自はアラブでも、西洋文化のもとで育った彼女のような若い音楽家が、
自身のルーツを傾倒したにしては、あまりにインチキなアラブ風メロディを
作曲するのって、いかがなもんですかね。
だいいち彼女のエキゾ・センスって、
「キャラバン」や「ナイト・イン・チュニジア」くらい古臭くない?
ご本人はラビ・アブ=ハリルに影響を受けたと発言しているので、
それなら、もっとちゃんとアラブ古典を勉強すればいいと思うんですけどねえ。
まあ、そんなわけで、新作1曲目のミスティックなムードを漂わせるイントロで、
あぁ、またか……と思ったんですけれど、
展開していくうちに、どんどんと熱気を帯びていき、
前作とはだいぶ様相の違う展開の演奏となっていきます。
前作がムード・ミュージック臭い短い曲が並んでいたのとは打って変わって、
本作は10分前後の長尺曲ばかり。作編曲の才能を存分に発揮した、
ラージ・アンサンブルの醍醐味を堪能できるジャズ作品となっています。
サウジ・アラビアの映画監督ハイファ・アル=マンスール、
公民権活動家のルビー・ブリッジズにローザ・パークス、
パキスタンの人権活動家マララ・ユスフザイ、女性参政権を主張したサフラジェット、
パーキンソン病と闘いながら演奏活動を続ける
イギリス人サックス奏者バーバラ・トンプソンなど、
女性のロール・モデルとなる活動家たちに捧げられた本作は、
曲のテーマごと、趣向の凝らされた楽曲が並びます。
アラビック・ムードの1曲目から一転、
2曲目はいきなりセカンド・ラインのリズムで始まるという意表を突く展開。
13年にマララ・ユスフザイが国連本部でスピーチした内容を、
ヤズを含む複数の女性演奏家たちによって朗読した‘One Girl Among Many’ は、
スティーヴ・ライヒの‘Different Trains’から着想を得たもののようです。
いずれの曲も、コンポジションと即興のバランスがとてもよく、
練られた編曲に感心しました。
ヤズとともに新世代UKジャズ・シーンを引っ張る女性プレイヤーたち、
サックスのヌビア・ガルシア、ピアノのサラ・タンディ、ギターのシャーリー・テテー、
トランペットのシーラ・モーリスグレイのプレイもそれぞれの個性を十分発揮しているし、
前作に続いてヴィブラフォンが重要な役割を果たしています
(奏者はルイス・ライトからラルフ・ワイルドに交代)。
前作でもレディオヘットのカヴァーがもっとも秀逸だったように、
オルタナティヴ・ロック、ミニマル・ミュージックなどの要素を、
ジャズのラージ・アンサンブルにまとめ上げるところに、
この人の才能が光ります。
その意味でも、通俗なアラブ・ムードはジャマなだけ。
アラビック・ジャズを標榜するなら、もっと真摯にアラブ音楽を学んでほしいですね。
Yazz Ahmed "POLYHYMNIA" Ropeadope RAD506 (2019)