あれ? 去年新作が出ていたの!
これまでイヴァン・ドゥランが制作したガリフーナ音楽のアルバムは、
日本にも配給されていたのに、このザ・ガリフーナ・コレクティヴの新作は
日本盤が出なかったので、リリースされているのを気付きませんでしたよ。
13年に出た前作は、タイトルの“AYÓ”(ガリフーナ語で「さよなら」の意)が示すとおり、
亡きアンディ・パラシーオにオマージュを捧げた作品でしたね。
アンディのバックを務めていたメンバーたちにとって、
08年にアンディを失ったショックはあまりに大きく、
活動を再開するまで時間がかかりましたが、“AYÓ” はアンディの遺志を継いで
ガリフーナ音楽を一歩前に進めた、素晴らしいアルバムでした。
あれから6年。長いインターヴァルを経て出された新作“ABAN” は、
ガリフーナ語で「ひとつ」を意味するタイトルが付けられています。
ガリフーナの伝統的なリズムとメロディと、
現代的なカリブのサウンドを「ひとつ」にしようという意図なのでしょうか。
今作はダブやレゲトンの影響をうかがわせるところが新味で、
ガリフーナの太鼓やパランダのギターに、
エレクトロなトリートメントをうっすらと行ったり、
遠くで鶏が鳴くフィールドの音などを、聞こえるか聞こえないかのレヴェルで施しています。
印象的なのは、その慎重な手さばきで、エレクトロがガリフーナのサウンドを
覆いすぎることのないよう、神経を配っている様子がよくわかります。
かつてのプンタ・ロックのような、
粗っぽいトロピカル・サウンドのテクスチャーとは対極の、
きわめてデリケイトな処理で、控えめなプロダクションのセンスと同時に、
レゲエやクラーベなどのリズム処理の上手さに、
イヴァン・ドゥランの手腕が光っていますね。
かつて、アウレリオ・マルティネスのアルバムから、
グアヨ・セデーニョのサーフ・ロック・ギターを排除していることに
批判の目を向けたことがありましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-03-14
グアヨのサーフ・ロックやブルースのスタイルを借りたギターを
効果的に使っているのを聞くと、この控えめなやりすぎない使い方が、
イヴァンのアプローチであることを納得しました。
女性たちが伝えてきたガリフーナ民謡を発掘したプロジェクト「ウマラリ」の録音から
サンプリングした3曲もハイライトといえますけれど、
ガリフーナの伝説的英雄を歌ったラスト・トラックが感動的です。
1795年、セント・ビンセント島でイギリス軍に反乱を起こした
ガリフーナの酋長ジョセフ・サトゥエを歌った‘Chatuye’ は、
ガリフーナ・ドラムのプリメロとセグンダがガリフーナのリズムを奏で、
コーラスがイギリス植民地政府に抵抗したガリフーナの英雄の名前を連呼します。
エンディングでは、ホンジュラスの海岸でガリフーナ・ドラムを叩く
アウレリオ・マルティネスとオナン・カスティージョのサンプリングで
フェイド・アウトします。
タイトルの『ひとつ』とは、ガリフーナの過去と未来をつなげようとする、
コレクティヴのメンバーたちの情熱を表しているのでしょう。
The Garifuna Collective "ABAN" Stonetree ST3036 (2019)
The Garifuna Collective "AYÓ" Cumbancha CMB-CD27 (2013)
The Garifuna Women’s Project "UMALALI" Cumbancha CMB-CD6 (2008)