わお! 今度のシティの新作はいいぞ。
ユニヴァーサル移籍後のスタジオ作では、これ、最高作じゃないかな。
マレイシアのトップ・スターにして貴族に嫁ぎ、
まごうことなきセレブとなったシティ・ヌールハリザ。
スリア時代の最後の頃には、伝統歌謡とポップスの垣根を溶解させて、
マレイ・ポップの最高峰を聞かせてくれたシティでしたけれど、
ユニヴァーサルに移籍してからは、妙にコマーシャルな色気が漂う、
EDMに寄せたサウンドで歌わせたりして、
制作陣はいったいシティをどうするつもりなのかと、いぶかっていました。
3年前の前作から、無理なプロダクションが後退し、
シティの個性を生かす軌道修正がみられるようになりましたけれど、
今作でスリア時代末期のコンセプトへと完全に戻し、
より高みを目指したことがうかがわれます。
ドラマのサウンドトラックに使われたシングル曲や、
娘のために書いたシティのパーソナルな曲に、
マレイ・ポップの名歌手スディルマンの曲など、
さまざまな思いが込められたレパートリー11曲が厳選され、
1曲1曲しっかりと制作されているのが、伝わってくるじゃないですか。
古い伝統歌謡に新たな息吹を与えるとともに、
マレイシア王道のポップスと同居して歌い、
両者を違和感なく現代のポップスとして聞かせてくれます。
プロダクションさえ決まれば、
東アジア最高の歌唱力を誇るシティの歌に、向かう敵なし。
声質の使い分けも、シャープに響かせるかと思えば、
まろやかに大きく膨らませたりと自由自在。
そして、抑制の利いたこぶしを織り交ぜて聞かせるところも、シティの鉄板ですね。
ドラマティックなバラードを、押しつけがましくなく、
これほどストロングに歌えるのは、この人だけでしょう。
セクシーなタンゴという新機軸にも、ちょっとした驚きがありましたけれど、
シティだってもう不惑の年を越えているんですもんねえ。
伝統歌謡とラップをスムースに交叉させる仕事ぶりにも脱帽です。
パッケージのジャケットも、これまでスタジオのフォト・ショットだったのが、
屋外でのショットとなっているところも、
解放感を求めるシティの自由な気分が伝わってくるようです。
Dato’ Siti Nurhaliza "MANIFESTA SITI 2020" Siti Nurhaliza Productions/Universal 0740935 (2020)