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真摯な音楽家 藤井郷子

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藤井郷子/田村夏樹  PENTAS.jpg

真摯。

藤井郷子くらい、この言葉がふさわしいジャズ演奏家はいないんじゃないでしょうか。
その昔は、ビリー・ハーパーにも、同様の真摯さを感じたものですけれど、
ビリー・ハーパーの場合は、スタイルを変えない、求道者のイメージが強くありました。
藤井郷子の場合、ソロ、デュオ、トリオ、カルテット、オーケストラと、
フォーマットもさまざまなら、作品ごとに振れ幅の大きな演奏を聞かせるので、
求道とは違う、もっとしなやかな真摯さをおぼえます。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2010-04-30

藤井のジャズには、クリシェがない。
そこにぼくはとても信頼を置いているんですね。
どんなフォーマットであろうと、自分の求める音を真剣に追いかけていて、
毎回心新たに音楽に向きあっているから、クリシェなど現れようもない。

自分の音を探求することに、どこまでも貪欲で、妥協を許せないところは、
言い換えれてみれば、融通が利かず、
大概の人が諦めてしまうところにも挫けず続ける、
「しつこさ」のようなものを感じます。
ぼくも、しつこさにかけては人後に落ちないので、親しみを覚えるんですよね。

彼女は、手癖を禁忌としているんじゃないのかな。
さもなくば、凝りに凝りまくった構成を持つ曲を書いて、
手癖など現れるべくもないようにしているのではとさえ思ってしまいます。
フリー・ジャズといいながら、
あらかじめ用意した型で演奏をする音楽家が少なくないなかで、
藤井はホンモノのインプロヴァイザーといえる即興を聞かせてくれる人です。

がっちりとした建造物のような曲も書けば、
自由に即興する完全フリー・インプロのような演奏もするので、
題材を変えることで、音楽へのアティチュードの鮮度を保っているようにも思えますね。

そんな信頼の音楽家、藤井郷子と田村夏樹とのデュオ新作がスゴイ。
この二人でなければできない境地を仰ぎ見るかのようで、
聴き終えて、しばし身体の芯がジーンとしびれる感動を覚えました。
これまでこの夫婦デュオを何度となく聴いてきましたけれど、
これほどまでに集中力を高めた演奏は、初めて聴いた気がします。

メロディがあってないような曲のなかで、二人が互いの音に反応しながら、
自分のボキャブラリーで音列を紡いでいくのですけれど、
生み出されるサウンドの透明感がすごくって、その美しさに陶然とします。
二人のエネルギーがぶつかりあって、硬質な感触を残すものの、
心拍も血圧も上がらない落ち着きを保っている、そんなところもシビれます。

奔流を生み出す藤井のピアノを、
ひょうひょうとした田村のトランペットがユーモアでくるんでみたり、
そのやりとりは、昨日今日結ばれた二人にはできない、
長年連れ添って、酸いも甘いも知り尽くした夫婦ならではの通じ合いを聴くようで、
う~ん、人生はフリー・ジャズだなあと感じ入ってしまいますね。

藤井郷子/田村夏樹 “PENTAS” Not Two MW999-2 (2020)

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