クロンチョン発祥の地トゥグーの名を楽団名に戴いた、由緒正しきクロンチョン楽団、
オルケス・クロンチョン・カフリーニョ・トゥグーの13年の新作。
ようやく1年越しで入手できました。
この楽団の録音を、初めてCDに収録したのが、
オーディブックの『クロンチョン入門』だったこと、覚えてます?
もうずいぶん昔の話になりますけど、TV番組にも登場しましたよね。
中村とうようさんがガイド役を務めた、毎日放送のTV番組
「音楽の旅はるかⅡ 第32回 港ジャカルタ、歌300年」(85年5月12日放映)です。
この時とうようさんが、小型レコーダーで録音した2曲を含む3曲が、
オーディブックに収録されたんですね。
この3曲で聞けるリズムが、クロンチョンの特徴といわれる、
2台のクロンチョン・ギターがオン・オフで鳴らす「さざ波ビート」ではなく、
2台が同時にダウン・ストロークでリズムを刻む「ジャスト・ビート」だったのは意外でした。
これがトゥグーのクロンチョンの特徴なのだろうかと、不思議に思ったんですが、
このあとしばらく経って、オランダから出た彼らの単独CDに収録された
オーディブック収録の「クロンチョン・モリツコ」と同曲の“Kr. Moresco” では
さざ波ビートになっているので、あの3曲のリズム感はナゾなまま。
オーディブックの解説には、
「このバンドは正式にはオルケス・クロンチョン・プサカ・1661・モレスコ・トゥグー
Orkes Kroncong Pusaka 1661 Moresco Tugu という。
プサカとは遺産とか先祖伝来の家宝といった意味、
1661はトゥグー集落が生まれた年を表わす。
もちろん1661年以来バンドが続いて来たとは考えられない。
コーンハウザー女史の調べでは1935年以来ヤコブス・クィーコJacobus Quiko が
バンド・リーダーをつとめて来たとのことであるが、
ヤコブスがバンドを結成したのではなくそれ以前からバンドは存在したものと思われる」とあります。
今回の新作には、“Orkes Poesaka Krontjong Moresco Toegoe - ANNO 1661” という
楽団名が記載されていて、オーディブックのとうようさんの解説とは少し表記が違うんですが、
「モレスコ」というワードが目を引きますね。
ほかにも「カフリーニョ」と大きく書かれているなど、
イベリア半島で育まれたアラブ系文化の名残であるキーワードが並ぶところに、
クロンチョンのルーツがはっきりと刻印されていますね。
1661年トゥグーに居留したのは、ポルトガル白人ばかりでなく、
アラブ系、インド系、マレイ系さまざまなメスティーソたちだったということです。
少しこの楽団について調べてみたら、創立は1925年とのこと。
初代リーダーはヨゼフ・クイーコで、その後ヨゼフの弟のヤコブスがリーダーを継ぎ、
78年にジョセフの息子サムエルに、リーダーを交替しています。
95年作のCDの表紙に写っているのがサムエルですね。
そして、2006年にグイード・クイーコが4代目のリーダーとして就任し、
新作のジャケット表紙にもそれが記載されています。
録音が良いせいか、95年作以上に爽やかなアルバムとなっていて、
風薫る初夏の若葉が目に眩しいような、すがすがしさに溢れています。
グマ・ナダ・プルティウィのいかにもプロのお仕事といった演奏ぶりと違って、
アマチュアリズムの良さを感じさせます。
冒頭1曲目は、95年作でも演奏されていたグイード作のハワイアン。
95年作では、ナポリ民謡の「サンタ・ルチア」を歌っていましたけれど、
こんな自然体の雑食性こそに、クロンチョンを生んだ文化混淆の深みが滲み出ていますね。
Orkes Keroncong Cafrinho Tugu "KERONCONG DE TUGU" Citra Suara CSS8133 (2013)
V.A. 「クロンチョン入門」 オーディブック AB06 (1990)
Orkes Keroncong Cafrinho - Tugu "ORKES KERONCONG CAFRINHO - TUGU" Sam Sam Music CDHL04041 (1995)