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サハラの蜃気楼 イマルハン

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Imarhan  City Slang.jpg

またも新たなるトゥアレグ人バンドの登場です。
イマルハンは、アルジェリア南部の都市タマンラセット出身の5人組。
プレス写真を見ると、皮ジャケにジーンズで決めたルックスでキメていて、
トゥアレグの伝統衣装をまとった先達のバンドとの違いを印象付けています。

ライナーのクレジットを見ると、
13年12月にアルジェで録音された1曲のほかは、
14年12月と15年11月の2度に分けてフランスでレコーディングされていて、
じっくりと時間をかけ、本デビュー作が制作されてきたようですね。
その成果がしっかりと表われた、丁寧な仕上がりになっていますよ。

ティナリウェンやタミクレストのようなディープなブルージーさはないとはいえ、
抑制の利いたサウンドは、デビュー作と思えぬ落ち着きを感じさせます。
曲ごとにアクースティックとエレクトリックを使い分けていて、
小回りの利いたエレクトリック・ギター・リフが、
軽やかなファンク味をはじき出すアップ・テンポの曲では、
若々しい小気味よさを発揮しています。

バンド・リーダーで歌手兼ギタリストのサダムのつぶやくようなヴォーカルが個性的で、
淡々と詩を綴る繊細な歌いぶりに、惹きつけられます。
スロー・ナンバーでのサダムのつぶやきヴォーカルは、
サハラの蜃気楼を見るかのような幻惑を覚えました。

プロデュースにティナリウェンのベーシスト、エヤドゥが加わっているので、
どういう縁かなと思ったら、サダムと従兄弟関係だそうで、
エヤドゥの曲やサダムとエヤドゥの共作曲が数多く収録されています。

数多くのトゥアレグ・バンドの中で、今後どのように発展していくか、楽しみなバンドです。

Imarhan "IMARHAN" City Slang/Wedge SLANG50094 (2016)

還ってきたプエルト・リコ・サルサ ホセー・ルゴ &グアサバラ・コンボ

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José Lugo & Guásabara Combo.jpg

うぉー、すごい音圧。
ホーンズとパーカッション陣がぐいぐいと押し迫ってくるサウンドに、ノックアウト。
出音イッパツで、とびっきりの一級品のプエルト・リコ・サルサだってことが、
すぐわかるってもんですね。
コンボを名乗ってるけど、サウンドはまぎれもなく、重量級オルケスタですよ。

なんだかここんところ、サルサが還ってきてる感じがしますね。
ボビー・バレンティンの新作もそうでしたけど、
この前聴いたロス・アチェーロスの2作目も、
70年代サルサ時代のバリオの匂いをぷんぷんと撒き散らしていて、マイったばかりです。

で、こちら、リーダーのピアニスト、ホセー・ルゴは、
ボビー・バレンティンやウィリー・ロサリオのもとで修行し、
その後、ヒルベルト・サンタ・ロサ、トニー・ベガ、ビクトル・マヌエル、イサック・デルガード、
エルビス・クレスポなど、さまざまな歌手のディレクションを務めてきた人とのこと。

バイラブレに徹して、一瞬たりとも緊張を緩めないスキのないアレンジが見事じゃないですか。
まさに豊富なキャリアに裏打ちされたディレクションといえますね。
この緻密なアレンジこそが、80年代以降のプエルト・リコ・サルサの醍醐味ですよ。
オルケスタが気持ちよく、ウネること、ウネること。
ボビー・バレンティンはシャープな切れ味でウナされましたけど、
こちらはファットなグルーヴに魅せられました。

懐の深さを感じさせたのは、ノロ・モラレスの曲をインスト演奏でさらりとやっていたこと。
ほかにも、ルイス・カラフのメレンゲを取り上げていたりと、
プエルト・リコだけにとどまらない古典ラテンへの目配りをしていて、
アルバムに奥行きを生んでいるところも、さすがです。

José Lugo & Guásabara Combo "¿DÓNDE ESTÁN?" Engrande Music EG506 (2016)

サルサでステップを踏んで ロス・エルマノス・ゴンサレス

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Los Hermanos Gonzalez.jpg

これまたゴキゲンなサルサですよ。
もう黙ってなんか、聴いてらんない。ステップを踏んじゃいますよ。
どうしちゃったんだ、いったい。サルサ、まじで来てるぞ、風が。

いきなりオープニングから懐かしい声が出てきて、
ええっ?とジャケットを見たら、なんとティト・アジェンの名が書かれているじゃないですか!
昔と変わらぬ、このみずみずしい歌いぶりはどうです。ぜんぜん声が衰えてませんね。
70年代からサルサを聴いてきたファンには、76年の“FELIZ Y DICHOSO” が忘れ得ぬ人。
もう大ヴェテランなわけですけれど、スムースな味わいは、ちっとも変っていません。

さらにもう一人、バリオのソネーロことフランキー・バスケスも歌ってるじゃないですか。
こりゃもう、オールド・ファンにはたまりませんねえ。

主役のゴンサレス兄弟とは、音楽監督を務めるトレス兼ギターのフレディ・ゴンサレスと、
ベースのホセ“パポ”ゴンサレスの二人とのこと。
ティンパレスのプピ・ゴンサレスと、ボンゴのアンヘル・ゴンサレスも同じ兄弟なんだそうです。
ハリウッド映画のポスターのようなジャケットに写る二人を見ると、若くはなさそうで、
けっこうキャリアのある人なのかな。バイオがないので、よくわからないんですが。

調べてみると、フレディは07年にリトモ・セイスというグループ名で1枚アルバムを出していて、
全8曲中7曲を作曲しています。残り1曲はホセ“パポ”ゴンサレスが書いているんですね。
本作もフレディ・ゴンサレスが4曲、ホセ“パポ”ゴンサレスが2曲書いているので、
作曲活動をしてきた人なのかもしれませんね。

キレのあるリズムにのせ、高らかに鳴るホーン・アンサンブル、
ギミックなし、直球ストレイトで迫るオールド・スクールなサルサ。
スウィングにまみれながら踊るうち、感極まって頬が涙で濡れます。

Los Hermanos Gonzalez "NO ME FALTA NADA" no label no number (2016)

センバ若手期待の星 エディ・トゥッサ

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Eddy Tussa  KASSEMBELE.jpg

センバ若手期待の星、エディ・トゥッサの3作目を数える新作が届きました。
センバ新世代の大傑作といえる前作“GRANDES MUNDOS” から3年ぶりのアルバムです。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-11-12

前々作のデビュー作、前作ともに、
伝説のセンバ・シンガー、ダヴィッド・ゼーの曲を取り上げていて、
「若いのに見上げたもんだ」などと思っていたんですが、
今回の新作では、50年代から活動するセンバの古参シンガー・ソングライター、
エリアス・ジア・キムエゾの“Muimbu Uami” や、
70年代を代表するセンバ・シンガーのひとりである
マムクエノの“Pequenina” を取り上げていて、
アンゴラ音楽の黄金時代だった70年代センバへの敬愛ぶりは、ホンモノです。

今作も人力のリズム・セクションならではといえる、まろやかなグルーヴがいいですねえ。
シンセや女性コーラスが華やかなムードをどんなにまき散らしても、
ディカンザをシャカシャカとこする響きや、
トコトコトコトコと詰まったようなリズムで叩かれるコンガの音色が、
昔ながらの土臭いセンバの味を伝えていて、嬉しくなります。

ズークやルンバなどの汎アフリカン・ポップス・サウンドをまといつつ、
軸足をしっかりとセンバに置いたプロダクションは、今回も手堅いですよ。
前作のようなソン、サルサ、コンパまで取り入れた多彩さはみられないものの、
トロンバンガのようなホーンや、レキント・ギターのトレモロなど、
そこかしこに施されたセンスのよいアレンジに、おおっと耳を奪われる場面多数。

ラスト・トラックは、アンゴラの伝統音楽グループ、キトゥシの曲です。
前作でも、アンゴラの伝統的なメロディを生かしたボンガ作の“Muadiakime” を歌っていましたが、
こういうアフロ色の強い曲を取り上げるところが、エディの個性となっていますね。

キトゥシは、先に挙げたエリアス・ジア・キムエゾと、
アンゴラ初のポピュラー音楽グループ、ンゴラ・リトモスで看板女性歌手だった
ルルデス・ヴァン=ドゥネンによって編成された5人組のパーカッション・グループです。
そういえば、キトゥシ、エリアス・ジア・キムエゾ、ルルデス・ヴァン=ドゥネンは、
パウロ・フローレス、バンダ・マラヴィーリャなどとともに、
05年に愛知で開かれた「愛・地球博」に来日したんですよねえ。
アンゴラのオール・スターがずらりとやってきたのに、観れなかったのは、今も悔やまれます。

Eddy Tussa "KASSEMBELE" Xikote Produções ETCD03 (2015)

コンテンポラリー・ジャズ・ミーツ・ビート・ミュージック トニー・マッカスリン

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Donny McCaslin  FAST FUTURE.jpg

おお、ひと皮むけたかな。
新世代コンテンポラリー・ジャズのテナー・サックス奏者トニー・マッカスリンの新作。
前作“CASTING FOR GRAVITY” もカッコよかったんだけど、
爆発しそうでなかなか爆発しないもどかしさが、なんとも歯がゆく、
整合感ありすぎな演奏ぶりに、イマドキの若手ジャズはこれだからなあと、
タメ息のひとつも漏らしてたんでした。
「センスの良さ」なんてもん、かなぐり捨てて、もっとバァーッといけよ、バァーッと。

あれから3年。新作のメンツも同じなので、変わり映えないかと思ったら、
今度はちょいと様子が違う。パワー・アップしたんではないかい?
ビート・ミュージックを取り入れたマーク・ジュリアナのドラミングが大活躍していて、
いやー、カッコいいとはまさにこのこと。
マークのバスドラにピタリと合わせて、
ティム・ルフェーヴルがベース・ラインを弾くところなど、失禁ものですよ。

リズムの鬼みたいな演奏になるところが、個人的には好みなので、
きっちりと構成されたコンポーズの、端正に仕上げた曲は、どうもまだるっこしい。
そんなにわかりやすくしなくっても、いいんだけどなあ。
ま、そんなところが、やっぱ完全満足とはいかない人ではありますけれど、
マーク・ジュリアナの絶好調ぶりに引っ張られて、
トニー自身のテナーもアグレッシヴにブロウする局面もみられるし、
鍵盤担当のジェイソン・リンドナーも、前作より出張る場面が増えています。
もっともっと出しゃばってくれても、いいんだけどね。

Donny McCaslin "FAST FUTURE" Greenleaf GRECD1041 (2015)

ハーモロディックとコンテンポラリー・ジャズの結婚 マイケル・グレゴリー・ジャクソン

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Michael Gregory Jackson Clarity Quartet  AFTER BEFORE.jpg   Michael Gregory Jackson  CLARITY.jpg

マイケル・グレゴリー・ジャクソン?
誰だっけ? はじめはなかなか思い出せず。
76年にESPからレコード出してた人と言われて、ようやく思い出しました。
あぁ、あの、不思議ちゃんかぁ。

オリヴァー・レイク、レオ・スミス、デヴィッド・マレイという、
フリー/アヴァンギャルド系のツワモノたちをバックに、
構成力のあるしっかりとしたラインを弾くギター・プレイと、
不穏な静謐さを持った作曲能力をあわせ持つ、ギタリストでしたよね。

ただ、ぼくが「不思議ちゃん」というのは、
そんな演奏の合間で、ふにゃふにゃの脱力ヴォーカルを聞かせるところで、
前衛ジャズに突然マイケル・フランクスが紛れ込んだかのような
その場違いぶりに、変な人だなあという印象が残っていたんです。

ぼくはマイケルのそのデビュー作、ESP盤1枚しか知らず、
ほかのマイケルのアルバムを聴いていないんですが、
80年代に入ると、エンヤからギター・ソロを出す一方で、
ナイル・ロジャースのプロデュースでポップ路線のアルバムを作ったりしていて、
その才能の発揮ぶりも、なかなか不思議ちゃんだったみたいですね。

で、そんなすっかり忘却の彼方にあった名前だったんですが、
突然出た新作に、すっかりマイあがってしまいました。
ESP盤でも披露していたフリー、モーダルのどちらもいけるギター・スタイルで、
アブストラクトとジャジーを弾き分けているんですが、これがどちらも見事なんですよ。
鋭角に切れ込むシャープなギターの切れと、緻密に構成された長いソロ・ワークは、
ジェームズ・ブラッド・ウルマーとケビン・ユーバンクスの二人を合体させたかのようです。

相変わらずの不思議ちゃんヴォーカルが登場する、フォーキーな曲もあるんですが、
さすがは70年代から活躍するヴェテラン、
新世代のコンテンポラリー・ジャズにありがちな欲求不満を感じさせない、
吹っ切れた演奏ぶりが快感です。
オーネット・コールマンに捧げられた1曲目なんて、
ウルマー、ロナルド・シャノン・ジャクソン、デヴィッド・マレイ、アミン・アリによる
ミュージック・レヴェレイション・アンサンブルの大傑作“NO WAVE” が蘇ったかのよう。

共演しているのはぼくの知らないデンマークのミュージシャンたちなんですが、
スリリングなソロでマイケルと渡り合う、
シモン・スパング・ハンスンというサックス奏者のプレイは聴きもの。
コンテンポラリー・ジャズとハーモロディックが結婚したら、こんなんできました、でしょうか。

Michael Gregory Jackson Clarity Quartet "AFTER BEFORE" Golden MGJCQ003 (2015)
Michael Gregory Jackson "CLARITY" ESP-Disk’ ESP4028 (1976)

シティ・ポップになったジュジュ フェミ・オルン・ソーラー

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Femi Oorun Solar  MERCY BEYOND.jpg

ナイジェリアで5月2日に発売された、フェミ・オルン・ソーラーの新作。
前々作14年の“GRACE” を入手した後、いつまでも記事を書かずにいたら、
評価していないのかと誤解されてしまったので、今回はすぐに書いております。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-12-17

それにしても“GRACE” の反響は、正直意外でした。
ミュージック・マガジンの2015年間ベストにも選ばれ、
タワーレコードの店頭にも並んだんですからねえ。
タワーレコードで、紙パック仕様のあの簡易なナイジェリア盤CDが売られたのって、
初めてのことだったんじゃないかな。

15年の“MY TIME” に続いてリリースされた本作、長尺と短尺半々の4曲を収録し、
“GRACE” でも発揮されていたサウンドのアイディアが豊かなジュジュを味わえます。
フェミのジュジュの良さは、なんといってもパーカッション・アンサンブルがしっかりしていて、
メリハリが利きまくっているところですね。
バンドの写真をみると、トーキング・ドラムだけで8人もいるんだから、
サウンドに厚みが出るわけだよなあ。

使われているトーキング・ドラムを眺めてみると、肩にかける鼓型のドゥンドゥン系と、
座って膝の上に立てて叩く平面太鼓のサカラの両方を組み合わせているところが、要注目。
一般にジュジュで使用されるトーキング・ドラムはドゥンドゥン系のみで、
フジで使われるサカラのトーキング・ドラムが使われることはありませんでした。
これによって、バウンシーなリズムがより強調され、
要所要所に差し挟まれる、雪崩を打つような緻密なリズム・ブレイクが、
キマリまくるってわけです。

こうしたハード・ドライヴするリズム・セクションの存在が、
フェミが範としたインカ・アイェフェレとの決定的な違い。
平板なリズムとグルーヴ感皆無のインカ・アイェフェレのゴスペル・ジュジュを長年、
だからアフリカのゴスペルはダメなんだよと、ずっと思っていましたけど、
ダメなのはゴスペルではなくて、インカ・アイェフェレなんですね。
3曲目冒頭の賛美歌ふうコーラスも、ちっとも気にならなかったもんなあ。

ジュサを称するフェミのジュジュ・サウンドは、洗練された軽快なスタイルが持ち味。
サニー・アデを思わす、軽くトースティングするようなフェミのヴォーカルと、
きれいめな男女混声コーラスは、ジュジュがシティ・ポップ化したかのよう。
シンセが代用したホーン・セクションのソリから始まる4曲目では、
R&Bのセンスで料理したヨルバ・ハイライフふうに始まり、
途中からジュジュらしいメロディに移っていくという、
キリスト教系ヨルバ音楽の過去と現代を繋ぐ試みに、ゾクゾクしてしまいました。

Femi Oorun Solar and His Sunshine Jasa Band "MERCY BEYOND" FS7 Music/Omoola Bold Music Promotion no number (2016)

新世代南ア・ジャズの極上ライヴ カイル・シェパード

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20160528_Kyle Shepherd.jpg

南ア・ジャズの歴史ある都市ケープタウンから登場した、
アフリカン・ジャズ・ピアニストの新星、カイル・シェパード。
12年作“SOUTH AFRICAN HISTORY !X” では、
ダラー・ブランド(アブドゥラー・イブラヒム)直系のピアノを聞かせてくれ、
こりゃ頼もしい新人が出てきたぞと大注目していたのでした。

タイトルが示すとおり、しっかりと南ア音楽の伝統を見据えた内容で、
トラディショナルとクレジットされた曲では、
マラービを復活させるかのような演奏を聞かせてくれ、快哉を叫んだものです。
ダラー・ブランドでお馴染みのフレーズも盛んに飛び出し、
「小粒なダラー・ブランド」といった印象もあるんですけれど、
民俗音楽まで取り込もうとする意欲は、ブランドの影響下にとどまらない意欲をうかがわせます。
まだ弱冠24歳の若者ですからねえ、こりゃ期待せずにはおれないってもんです。

その後カイルが何度か来日していたのは知っていたんですけど、
フェスへの参加だったりで、なかなか観る機会がなかったんですが、
今回はトリオによる単独公演なんだから、見逃すわけにはいきません。

いやぁ、堪能しましたよ。
左手のリズムが、まあ重厚なこと。
これぞアフリカン・ジャズといえる、どっしりとしたビート感が強力でした。
時に右手が、詩情あふれるロマンティックなフレージングを奏でることはあっても、
左手の揺るがないタイム感が、甘く叙情に流れるのを押しとどめます。

さらに、アフリカン・ジャズの面目躍如だったのは、
譜面をピアノの弦の上に置き、ピアノの音色をノイジーに変えたりしていたところ。
この技法は、現代音楽のプリペアド・ピアノなんかとは無関係ですからね。
アフリカ音楽を知る人なら、親指ピアノを再現していることが、すぐに理解できたはずです。
ンビーラ演奏そのものといったフレーズで曲は始まり、
やがてメロディが展開するにつれ、親指ピアノでなく、
バラフォンの演奏のようになっていくところで、鳥肌立っちゃったもんねえ。
アフリカ音楽を知らないジャズ・ファンは、この醍醐味がわかんなかったろうなあ。

親指ピアノのような素朴なメロディの反復は、ほかの曲にもみられ、
反復をしつこく繰り返すうちに、少しずつフレーズが転回していくところは、
まさにアフリカ音楽の特質を表現していたといえます。

アンコールの最後にやった、マラービ調の曲もよかったなあ。
あとでカイルにあの曲は何?と聞いたら、やはり「トラディショナル」だと答えていました。
ダラー・ブランドもよくやるテクニックで、左手と右手を交叉して右手が左手より低い音を弾くと、
南ア独特の雄大でおおらかなメロディが出現するんですよね。これがグッとくるんだよなあ。

カイルのピアノのことばっかり書いちゃいましたが、
今日的なビートも繰り出し、カイルを猛然とプッシュするドラムス、
堅実なプレイで、反復フレーズをカイルと展開していくベース、
3者のコンビネーションも当意即妙。
中盤で1曲のみ、猛烈にグルーヴする曲をやったのには、困っちゃったな。
踊りたくてたまらん状態の血流上がりまくりで、立ち上がるのを抑えるのに必死でしたぁ。

Kyle Shepherd "SOUTH AFRICAN HISTORY !X" Sheer Sound SLCD220 (2012)

80年代J-フュージョンの金字塔 ザ・プレイヤーズ

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The Players  Madagascar Lady.jpg

あああああああ、やっと! ついに! とうとう! CD化なりましたぁ!
いったい、どんだけ待たすんだ、ばかやろー、でありましたね(怒のち感涙)。

コルゲンさんこと鈴木宏昌率いるコルゲン・バンドあらため
ザ・プレイヤーズの最高傑作である、81年の『マダガスカル・レディー』であります。
前に渡辺香津美の記事にも書きましたけれど、
世のフュージョンのぼんくら評価のせいで、
いつまでたってもCD化がかなわなかった作品ですよ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-02-14

ザ・プレイヤーズの代表作というと、
80年の2作目『ワンダフル・ガイ』で事足れりにされてましたからね。
(ちなみに、LP当時から邦題がおかしいんだよなあ。「ガイズ」にすべきでしょ。
バンド名をプレイヤー「ズ」と名乗っているくらいなんだからさ)

なぜこれまで『ワンダフル・ガイ』が代表作扱いされてきたかといえば、
発売当時、日野皓正のゲスト参加で話題となったから。
ウェザー・リポートに強く影響されたバンドの音楽性が完成したのは、
このあとの3作目にあたる『マダガスカル・レディー』であることは、
ナカミをしっかりと聴いている人なら、歴然だってのにさ。

ハービー・ハンコックのジャズ・ファンクをいち早く取り入れたコルゲンのキーボード・プレイ、
エリック・ゲイルそっくりのギターを弾く松木恒秀、
スティーヴ・ガッドと聴きまがう渡嘉敷祐一のドラムス、
アンソニー・ジャクソンばりの太いベースを弾く岡沢章、
後期コルトレーン、ウェイン・ショーターの影響あらたかな山口真文のサックスという、
超一流のスタイオ・ミュージシャンが集まったザ・プレイヤーズ。

このメンバーで、和製ウェザー・リポートといった演奏を聞かせるんだから痛快です。
本作に収録された「C.P.S.(CENTRAL PARK SOUTH)」は、
曲想・メロディともに、ウェザー・リポートの「バードランド」のまんま引き写し。
ここまであからさまに似せると、かえってすがすがしいくらい。
このトラックに続き、ウェザー・リポートの名曲「8:30」もカヴァーしているんだから、なおさらです。

本作がザ・プレイヤーズの代表作にふさわしいのは、
山口真文の激烈なソプラノ・サックスが聴けるからなんですね。
ザ・プレイヤーズが素晴らしかったのは、山口真文がメンバーにいた時代で、
山口が抜け、サックスがボブ斉藤と中村誠一になってからは、バンドに華が失われました。
それくらい山口の存在感は大きかったといえます。

タイトル・トラックの「MADAGASCAR LADY」、「GET AWAY」でのソプラノ・サックスのソロは、
山口生涯ベスト級の名パフォーマンスです。
ひさしぶりに聴き返したけれど、血沸き肉躍って、もんどりうっちゃいました。
やっぱこれは、80年代J-フュージョンの金字塔というべき作品ですね。

大音量で聴いていて、家族から苦情がきちゃいましたけど、
長年ガマンしてたんですからね。もう辛抱たまりません。
35年ぶりに爆音でヘヴィ・ローテーションでっす!

The Players 「MADAGASCAR LADY」 GT MHC7 30042  (1981)

ジャズ芸人 エジ・モッタ

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Ed Motta  PERPETUAL GATEWAYS.jpg   20131019_Ed Motta.jpg

3年前の前作“AOR” のリリースに合わせて来日した
エジ・モッタのライヴは、楽しかったなあ。
アルバムのハイライトにもなっていた、
デヴィッド・T・ウォーカーをスペシャル・ゲストに招いたステージだったんですけれど、
エジ本人にとっても、この来日公演が
デヴィッド・T・ウォーカーとの初顔合わせだったとのこと。
デヴィッド・Tの参加は、データをやりとりしたオーヴァー・ダブ作業だったので、
じっさい一緒にスタジオに入ったわけではなく、来日公演で共演がかなったんですね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-06-03

クラブでライヴを観る時のマイ・ルールで、この時も最終日最終ステージ、
13年10月19日のセカンド・ステージを観たんですが、
予想外だったのは、エジのエンタテイナーぶり。
日本のシティ・ポップにも精通する、ド外れたレコード・コレクターのエジゆえ、
ステージで山下達郎の「Windy Lady」を歌い出したのには、らしいなあとは思ったものの、
ローズのエレピ弾き語りで披露したワン・マン・バンドのパフォーマンスには、ビックリ。

ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」が飛び出すわ、
シェリル・リンの「ガット・トゥ・ビー・リアル」が飛び出すわ、
アース・ウィンド&ファイアの「レッツ・グルーヴ」が飛び出すわで、
もう延々と止まらないもんだから、場内は拍手喝采。

エジ自身がホントに楽しそうで、ユーモアたっぷりに身振り手振りを交えながら、
ベースのスラップやドラムスのフィルインを、ヴォイス・パーカッションで披露。
さらにヴォコーダーやミュート・トランペット、ワウペダルなど、
70~80年代のクロス・オーヴァー・サウンドに耳なじんだ者にはたまらない、
ヴィンテージ・サウンドを繰り広げるヒューマン・ビート・ボックスぶりに圧倒されました。

もっともそこで面白かったのが、エジのパフォーマンスが
ビート・ボックスほど洗練されたものではなく、いなたい芸風だったところ。
スキャットなんかも、なんだかエディ・ジェファーソンみたいで、ジャズ芸人といった風情。
バークリー卒業者のおゲージツ・ジャズが主流の現在、
こういうエンタメ・センスに溢れたジャズをやる人は貴重ですね。

2部構成となった新作は、
そんなエジの「大衆音楽としてのジャズ」を発揮した快作となりました。
前半の「ソウル・ゲイト」の5曲こそ、前作“AOR” の延長線上の内容となっていますが、
後半の「ジャズ・ゲイト」では、来日公演時のライヴ・パフォーマンスの一端が現れています。
パトリース・ラッシェンやヒューバート・ロウズのキャスティングは、
レア・グルーヴ世代好みといえますが、
個人的には、マーヴィン “スミッティ” スミスの起用が嬉しかったな。

このほか今作で印象的なのは、エジが熱唱する場面が多く、
ライヴでも発揮されていた、エジのヴォーカリストとしての魅力を打ち出していること。
耳ざわりのいい西海岸フュージョン・サウンドなどと侮れない、
稀代のジャズ・エンタテイナーの逸品です。

Ed Motta "PERPETUAL GATEWAYS" LAB 344 83368973 (2016)
Ed Motta "AOR" LAB 344 LAB10153-2 (2013)

サンバ・ロックの新人デビュー作 トム・レゼンデ

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Tom Rezende.jpg

えぇ? ホントにこのジャケット写真の彼が歌ってんの?

驚きました。ネオアコとかやってそーな(←ヘンケン入ってます)
甘いマスクのイケメン男子なのに、
こんな酒ヤケしたようなハスキー・ヴォイスで、やさぐれヴォーカルを聞かせるなんて。
いやぁ、胸をすくねえ。いい歌いっぷりじゃないの。

さらに、新人のデビュー作としては破格ともいえる、
ゴージャスなプロダクションにも驚かされます。
一聴して、超一流のポップス職人が関わっていること明々白々なサウンドで、
リンコン・オリベッティのアレンジと聞いて、あぁ、やっぱりとナットク。

一級品のポップスに仕上げるツボを押しまくったアレンジはまさしく職人芸的で、
リンコンって、ブラジルのアリフ・マーディンといえるんじゃないですかね。
カシンがプロデュースを務めているところも、話題を呼びそうですけれど、
カシンらしい不穏なギターが活かされたトラックより、
リンコンの手腕が発揮されたホーン・アレンジの方が、耳を引かれるなあ。
それなのに、なぜかリンコンのクレジットが目立たないのが解せませんけど。

最近日本に入ってきたばかりのCDですが、14年にリリースされたものだそう。
制作にカシンとリンコン・オリベッティが関わったアルバムながら、
話題にも上らずにいたというのは、ますます解せませんねえ。
二十年前くらいなら、大メジャーからリリースされていて当然のクオリティなのに、
インディペンデントのリリースというのも、今のレコード業界事情でしょうか。

ジョルジ・ベン、チン・マイア、セウ・ジョルジが好きな人ならゼッタイの、
サンバ・ロック/ブラジリアン・ソウルの痛快作です。

Tom Rezende "TOM" Dueto no number (2014)

インドネシアン・プログレッシヴ・ジャズ・ロックの傑作 トーパティ・エスノミッション

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Tohpati Ethnomssion  MATA HATI.jpg

すげえ! インドネシアのフュージョンも、こんな高みに到達したのか。
フュージョンというより、プログレッシヴ・ジャズ・ロックの大傑作ですね、これは。
90年代に若手スゴ腕ギタリストとして名をはせ、
いまやインドネシアを代表するギタリストと成長したトーパティが放った最新作。
プログレが苦手なぼくをもねじ伏せる圧倒的なエネルギー、
そのパワー・プレイに完全降参です。

いわゆるガムラン・フュージョンみたいなアルバムは、これまでにもたくさんありましたけれど、
楽曲の構成、アレンジ、各楽器の演奏水準、録音のクオリティ、すべてにおいて
これほどの作品は、過去のインドネシアにありませんでした。

トーパティのギター、ベース、ドラムスに、クンダンとスリンを加えた
エスノミッションを名のる5人編成のバンドで、
インドネシアの伝統音階ペロッグをうたう“Pelog Rock” から、アルバムはスタートします。
シカケの多い緻密に計算された楽曲と、日本人にもなじみやすい5音音階のメロディに、
なんだか「歌舞伎ロック」みたい、てな印象も残したりするんですが、
ドラマティックなアレンジは絢爛豪華で、
くるくると変わる場面展開は、まさに歌舞伎の回り舞台を観るかのようです。

変拍子とポリリズミックなリズム構成の合間を縫うように、
攻撃的なギターがざくざくと響き渡り、
息つかせぬ怒涛のプレイが、小憎らしいほどキマっていて、ノせられちゃいますよ。

竹笛のスリンも、伝統音楽やダンドゥットで演奏されるかすれた音色ではなく、
フルートのような12平均律に正確なピッチを聞かせるところが、ハイテクな感じ。
クンダンとリズム・セクションが繰り出すポリリズムや、
インドネシアの伝統音階をふんだんに取り入れた、
エスニック・フュージョンの装いは、国内より国外にアピールするように思えますね。

トーパティの過去作では、もっとライト・タッチのフュージョンや、
アクースティックな演奏をやっていたような記憶がありますけれど、
本作にはそういった素振りはまったくなし。
一発録りなんじゃないかとも思える、ライヴ感みなぎるダイナミックさが圧巻です。

Tohpati Ethnomssion "MATA HATI" Demajors no number (2016)

美メロ・泣きのキゾンバ ヨラ・セメード

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Yola Semedo  FILHO MEU.jpg

グランド・ピアノを弾く女性の横顔を照らすライティングが印象的なジャケット。
アンゴラのキゾンバらしからぬ、ムーディなジャケットが暗示するとおり、
ピアノのイントロに始まるバラードから、アルバムはスタートします。

美麗なストリングス・アンサンブルをフィーチャーした美メロ曲に、うっとり♡
うわぁ、すごくいいオープニングじゃないですか。
この1曲目で、はや傑作と決まったようなものですね。
続いて、ギターのイントロから滑るようなコンパのリズムで始まる2曲目は、
これまた泣かせるメロディで、こりゃ、たまら~ん。
全編メロウなナンバーが並んでいて、すっかりお気に入りになりました。

アンゴラ西部ベンゲラ州のロビトで78年に生まれたヨラ・セメードは、
わずか6歳でデビュー。ヨラの兄たち3人が結成したグループ、
インパクタス・クアトロのリード・シンガーを務め、
すでに25年以上のキャリアを持つというシンガーです。
今作で初めて聴いたんですけど、歌は上手いしクセがなくて、
ポップ・シンガーとして広くアピールできる人といえます。
誰かに似てるなあと思ったら、ミジコペイのライヴDVDで、
トニー・シャスールとデュエットしていた女性歌手と声も歌いぶりもそっくりですね。

コンパ、サルサ、ヒップホップR&Bを取り入れたポップな音楽性と、
ホーンやストリングスもふんだんに使ったそのプロダクションは、
グローバルな世界市場にそのまま持ち込める、クオリティの高さといえます。
エレガントな女性コーラスが耳残りする柔らかなサウンド・テクスチャーは、
今日びのズーク・ラヴでもなかなか味わえない、極上のもの。
ティワ・サヴェイジに加えて、ヘヴィ・ローテーション中であります。

Yola Semedo "FILHO MEU" Energia Positiva Produções 88875137432 (2015)

スウィート・キゾンバの若大将 バドーシャ

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Badoxa  MEMÓRIAS.jpg   Badoxa  MINHAS RAIZES.jpg

海の彼方をみつめながら波打ちぎわを歩く、アルバムの主人公。
白く光る砂浜、大きく砕ける波しぶき、全身白の装いと、
リゾート・ミュージックを思わすジャケットは、
アフリカン・ポップスというよりは、まるでアメリカ西海岸産AORのよう。
アンゴラのキゾンバから、こういうセンスのジャケットが登場するあたり、
ポップスとしての成熟度の高さが示されているようで、嬉しくなりますね。

主役は、92年、ポルトガル南部の港町ポルティマンに生まれたバドーシャ。
カーボ・ヴェルデ人の父とアンゴラ人の母のもとに生まれ、
おととし14年、弱冠22歳という若さでデビューしたキゾンバのシンガーです。
前回記事のヨラ・セメード同様、この人もキゾンバど真ん中の人ではありますが、
最近のセンバ回帰の傾向を受け、
ディカンザを響かせるセンバもしっかりやってくれています。

デビュー作ですでに、作曲・マルチ楽器演奏・プロデュースと才能を発揮していましたが、
2作目では、さらにソングライティング面で著しい成長をみせています。
デビュー作では、G=アマドという人が共作者として多くクレジットされていましたが、
新作ではその名前が消え、代わりにR・ノブレガという人と多く共作しているので、
その影響も大きそうですね。

耳残りのするフックの利いたメロディが並び、
全17曲78分超えという長さを、飽かさず一気に聞かせるところは、
デビューまもない新人とは思えぬ仕事ぶりといえます。
打ち込みで作ったトラックと、ドラムスとベースの人力リズム・セクションのトラックを、
バランスよく配置したのも成功していて、プロダクションの充実ぶりにも、
キゾンバの絶好調を実感します。

8歳からカポエイラを学び、12歳の時にアルガルヴェで開かれた
カポエイラ大会で優勝したというのも合点のいく、頼もしい体格をしたバドーシャ。
見かけによらぬ、スウィート&メロウな味わいを聞かせる若大将です。

Badoxa "MEMÓRIAS" É-Karga Eventz/Vadisco 11.80.9782 (2016)
Badoxa "MINHAS RAIZES" É-Karga Eventz no number (2014)

八尾のギターMC ローホー

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アクースティック・ギター一本でラップし、歌を歌うというのは、
ごまかしのきかない、いわば丸裸ともいえるスタイル。
ギターMCとでも呼べばいいのか、
ローホーを名乗る若者のPV「浮き草」を偶然観て、イッパツで魅了されました。

バツグンに滑舌が良くって、ディクションも明快。
日本語をリズムにのせるフロウが鮮やかで、
日本人でこんなに肉感のあるビートを吐き出すラッパーを聴いたのは、ぼくは初めて。
もっともラップには疎いので、ぼくが知らないだけの話だとは思いますが、
そんな門外漢のオヤジ・リスナーをCDショップに向かわせたんだから、
このPVの説得力、ただごとじゃありませんよ。

そんでもって、ギターの腕前がこれまたスゴい。
ギターをばんばん叩くスラム奏法を駆使して、スピード感溢れるビートを繰り出します。
う~ん、ヒップホップで育った世代のギター弾き語りって、カッコイイねえ。

だってねえ、おじさん世代のギター弾き語りって、ダサかったんだよ。
アルペジオでしみったれた歌を歌うフォークや、
ギターをただストロークするだけの、技のないフォーク・ロックがデカい顔してたんだから。
あの頃のギター好きとしては、ブルースかジャズに向かうしかなかったので、
イマドキの若者の音楽性が、まぶしくみえますよ。

ブルースを体得した渋みのある曲を歌う一方、
サーフ・ロックを思わせる、からりとした曲も歌ってみせる。
ジャイヴやホーカムをホウフツとさせるユーモアもあって、
ギター1本でひょうひょうとジャンルを越境する豊かな音楽性が、この人の強みですね。

ホームレスになったことも1度や2度ではないという、
どん底生活を経験をしたことも、リリックに深みを与えています。
「One Day」の傷ついた人に寄り添う温かさに、
痛みを知る者の器の大きさがさりげなく示されているし、
原発問題をテーマにした「Genpatsu Boogie」にも、
自分の足元に引き寄せて語る誠実さに、反原発ソングに鼻白むぼくも共感できました。

本人もリリックで語っているとおり、不幸自慢ではなく、
みずからの境遇を笑い飛ばす人なつこさが、この人の最大の魅力。
関西人ならではのユーモアとペーソスは、
ぼくの世代的には有山淳司や憂歌団に通じるものがあって、
親近感が持てますねえ。
もしストリートの投げ銭ライヴで観たら、
その場を離れられなくなることウケアイの、強力な磁力を持った逸材です。

ローホー 「GARAGE POPS」 Pヴァイン PCD22394  (2016)

キューバ音楽の伝統を前進させる才能 アチ・ラング・イ・エル・アフロクーバ

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Achy Lang Y El Afrocuba.jpg

うわ~、器用だなあ。
ソンにキューバン・サルサ、ダンソーン、ラテン・ジャズ、トローバ、グアヒーラ、
最後にはチャングイまでもと、多彩なスタイルを流麗に聞かせます。

その演奏があまりにも鮮やかすぎて、
ひっかかりがないことに不満を募らせるのは、年寄りの悪い癖。
だってさあ、スムースすぎません? オールド・キューバンの野趣な味わいを知るオヤジには、
なんだかなあという感想を拭い去ることができません。
なんてブツブツ言ってたくせに、毎夜CDをトレイに載せて、
プレイボタンを押してるんだから、なんだ、気に入ってんじゃん、自分。

アフロ・キューバン・オールスターズのフアン・デ・マルコス・ゴンサーレスの右腕として活躍してきた
若手敏腕ミュージカル・ディレクター、アチ・ラングの新作です。
参加したミュージシャンの顔ぶれが豪華で、
アマディート・バルデース、バルバリート・トーレス、
マラカ、ロランド・ルナといった超一流どころがずらり。
そんな豪華メンバーの技をきっちり浮かび上がらせるアレンジとデイレクションは、
アチ・ラングの得意とするところで、しっかりと計算され尽くされているからこそ、
これほどスムースに聞けるってわけですよね。

DVDのコンサート・ライヴも、見どころが満載。
バルバリート・トーレスのラウーの超絶技巧に、マラカのフルート・ソロ、
アマディート・バルデースの肩の力の抜けたティンバレス・プレイは、
いかにもお爺さんといったその外見から想像できないシャープさで、脱帽・降参・悶絶。

アフロ・キューバン・オールスターズの歌い手テレーサ・ガルシア・カトゥルラ(テテ)も
味わい深い歌を聞かせるほか、アチ自身の歌が上手いのにも感心させられました。
ピアノ、ギター、ヴァイオリンというマルチ演奏ばかりか、どんだけ才能あるんだ、この人。
キューバの伝統を前進させるのは、こういう人なんですねえ。

[CD+DVD] Achy Lang Y El Afrocuba "ABRIENDO EL CAMINO" Producciones Colibrí CD/DVD258 (2012)

オルケス・ムラユ時代のノスタルジア イイス・ダーリア

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Iis Dahlia  DIVA ASMARA.jpg

「ポップ・ムラユ・クレアティフ」?
<クレアティフ>ってなんじゃいと思ったら、インドネシア語の<クリエイティヴ>だそう。
泣き節で一世風靡したヴェテラン・ダンドゥット歌手のイイス・ダーリアの新作は、
クリエイティヴなポップ・ムラユ集を銘打っています。

その中身はいかなるものかと思ったら、
60~70年代のオルケス・ムラユ時代を思わす、初期ダンドゥットのサウンド。
マレイ歌謡色濃厚なサウンドとはいえ、ダンドゥットであることは間違いないのに、
あえてダンドゥットを名乗らないところは、ムラユ・ブームを当て込んでのことなんだろうな。

Iis Dahlia  KECEWA.jpg   Sekar Langit  BALADA DANGDUT.jpg

イイス・ダーリアといえば忘れられないのが、95年に大ヒットした“Kecewa” です。
インドネシア独立50周年の年に、いにしえのムラユを取り上げた企画作で、
泣きの女王と呼ばれたイイスの持ち味が発揮された傑作でした。
面白いのは、あの当時は「ノスタルジア・バラーダ・ダンドゥット」というふれこみだったことで、
ノスタルジアと言っても、ムラユの名は出さなかったのに、今や反対となったわけか。
そういえば、97年にはカメリア・マリック、エフィ・タマラと組んだ3人組で、
「バラーダ・ダンドゥット」なんてアルバムも出していましたっけね。

Iis Dahlia  ASMARA KURINDU.jpg

イイス・ダーリアが本格的なムラユ歌謡に挑戦したアルバムとして忘れられないのが、
00年の“ASMARA KURINDU” でした。艶やかなヴァイオリンやアコーディオン、
アクースティック・ギターを配して、P・ラムリーの曲をアシュラフとデュエットするなど、
見事なムラユ・アルバムになっていました。
企画作ながら、イイス・ダーリアの名作として忘れられないアルバムです。

で、新作はその“ASMARA KURINDU” をも上回る、最高傑作に仕上がりましたね。
しとやかな美声に磨きがかかり、軽やかになった声は、より魅力が増しています。
以前は歌い上げるところや、泣き声を強調するところに、
少し重ったるさを感じるところもあったんですけれど、
今作では抑えた歌唱でふんわりと歌うようになっていて、すっかりマイっちゃいました。

アコーディオン、ヴァイオリン、ルバーナがムラユ歌謡の哀感を引き立てるとともに、
スリン、シンセ、ロック調のギターが下世話なダンドゥッドのサウンドを盛り上げるという、
大衆味たっぷりのプロダクションも申し分なく、大満足であります。
ひと昔前にはイェット・ブスタミのアルバムで盛り上がったこともありましたけれど(覚えてる?)、
これもまた、エレガントなムラユ歌謡にルーツ回帰したダンドゥット傑作です。

Iis Dahlia "POP MELAYU KREATIF : DIVA ASMARA" Insictech Musicland 51357-23642 (2015)
Iis Dahlia "KECEWA" HP/Musica HPCD0054 (1995)
Sekar Langit (Iis Dahlia, Camelia Malik & Evie Tamala) "BALADA DANGDUT" Blackboard/HP CI66 (1996)
Iis Dahlia "ASMARA KURINDU" HP/Musica HPCD0107 (2000)

生々しく土臭い古典音楽 アリム・ガスモフ

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Alim Qasimov  MORQE SAHAR.jpg

ポピュラー音楽とは別次元で、魂を揺さぶられる音楽があります。
ぼくにとっては、アゼルバイジャンの古典音楽ムガームがそのひとつ。
イランで発売された、ムガーム当代最高の歌手
アリム・ガスモフの新作DVD付2枚組CDが素晴らしくって、
ひさしぶりにアリム熱が再燃してしまいました。

イラン北西部タブリーズでのコンサート・ライヴを収録したものなんですが、
DVDでのアリムのパフォーマンスが絶品なんですよ。
いまやアリムは世界各国に招かれるようになりましたけれど、
住民の多くがアゼルバイジャン人のタブリーズは、
いわばホームグラウンのようなものだから、
リラックスしてのびのびと歌うには、最高の環境だったんでしょうね。

タイトルの「モルゲ・サハル」は、イランの古典声楽の大物シャジャリアンが歌った
マーフール旋法のタスニーフだとのこと。
でも、ここではもちろんペルシャ語ではなく、アゼルバイジャン語で歌っています。
シャジャリアンが歌ったというそのタスニーフは未体験ですけれど、
聴かずしても、アリムの方がぜったい素晴らしいだろうという確信が、ぼくにはあります。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14

アリムの歌をバックアップするのは、
タール、ケマンチェ、クラリネット、ダヴル(太鼓)の4人組。
ネイじゃなくて、クラリネットを使うところが面白いですね。
曲によってはネイも使っていますが、
メインはクラリネットで、トリッキーな音をアクセントに使ったりして、効果をあげています。

太鼓も、イランならダウルじゃなくトンバクを使うはずだから、
こんなところがイラン音楽とアゼルバイジャン音楽の違いなのかなあ。
あと、ジャケットでアリムが蛇皮のダフを持っているのに目を奪われたんですが、
DVDでは普通の皮のダフを使っていました。
蛇皮のダフなんて初めて見ましたけど、平手で叩いて痛くないんでしょうか。

現在のイランの音楽家によるタスニーフより、アリムのムガームの方に親しみを覚えるのは、
イランほど過度に洗練されていないからですね。
アリムには民俗的な土臭さがたっぷりあって、
イランのタスニーフを歌っても、なまなましさを感じられるところが一番の魅力です。

歌の主旋律に装飾していく各楽器のフレーズが、
歌の強弱に合わせて当意即妙に応答していくさまは、古典音楽特有の優美さですね。
クラシックでいうところの、ピアニッシモからフォルティッシモまで自在に変化するダイナミクスと、
微分音を多用する音の揺らぎが、時に繊細に、時に嵐のように音楽を波立たせます。
そうした演奏の中で、アリムがタハリールを炸裂させれば、もう恍惚となるほかありません。

[CD+DVD] Alim Qasimov "MORQE SAHAR : TABRIZ CONCERT" Barbad Music no number (2014)

アダルトなバラード・アルバム シェリーン

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Shireen  TARIKI.jpg

シャバービー目下の愛聴盤は、ナワール・エル・ズグビーで今も変わらず。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-05-14
ひさしぶりに大ヴェテラン、サミーラ・サイードの新作が出たので、
乗り換えになるかなと思ったんですけれど、曲に魅力がなくて、ちょい期待外れ。
というわけで、ナワールが依然として不動の座を占めてたんですが、
ごひいきのエジプトの歌姫シェリーンの新作が届き、さあ、果たして交代なるか。

シェリーンは、03年にフリー・ミュージックからデビューし、一躍トップ・スターとなった人。
3作目の07年作からロターナに移籍、6作目となる14年の前作ではエジプトのノグムに移り、
新作はUAEのビーリンク・プロダクションからリリースされました。
アラブ全国区で人気を誇るシンガーらしく、
これまではシャバービー典型のカラフルなプロダクションにのせて歌っていましたけれど、
この新作はだいぶ様子が違います。
ゴージャスな弦楽オーケストラを伴奏に歌っていて、
これまで1・2曲はあったエレクトロ調の曲も、今回はまったくなし。

なんかフェイルーズみたいだなと思いながら、聴き進めていくと、
歌いぶりもいつものシェリーンの甘ったれた手弱女ふうな風情じゃなく、
クールなふるまいを演出しているよう。
これ、完全にフェイルーズを意識してるでしょ。

女王フェイルーズとは比べようもありませんけれど、
いつものチャーミングな軽い歌い口と、
がらりと雰囲気を変えたアダルトなムードは、悪くありません。
全編エレガントなバラード・アルバムで、アラブ歌謡らしい曲は、
アラビックなパーカッションが活躍する終盤5曲目の1曲のみ。
わずか22分弱という異色作のミニ・アルバム。これは、いけます。

Shireen "TARIKI" Beelink Productions no number (2015)

蘇るショーロ神話時代のコントラポント イリニウ・ジ・アルメイダ

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Irineu De Almeida E O Oficleide.png   CHORO CARIOCA E GRUPO CARIOCA.jpg

20年に1度級の、スゴいショーロ・アルバムが出ましたよ。
ショーロ・ファンだけが楽しむんじゃ、もったいないくらいの内容で、
管楽器好きの音楽ファンにぜひオススメしたい、素晴らしい企画作です。

それが、ショーロ第2世代の代表的な音楽家である
トロンボーン/オフィクレイド奏者、イリニウ・ジ・アルメイダ(1863-1914)の曲集です。
イリニウ・ジ・アルメイダの名がよく知られているのは、
ピシンギーニャの最初の先生だったからですね。

イリニウは、ピシンギーニャのお父さんが大家をしていた下宿に暮らしていて、
音楽好きだった大家の息子にチューバと作曲を教え、
仲間のショローンたちに引き合わせるなど、ピシンギーニャをかわいがっていたようです。
1911年には、わずか14歳のピシンギーニャが、イリニウ率いるショーロ・カリオカの一員として、
“São João Debaixo D’água” の録音を残しています。

でも、この人の真価は、別なところにあります。
ショーロにはじめてコントラポント(対旋律)の演奏を導入したのが、イリニウなんです。
いわばイリニウは、ショーロの演奏技法の基礎を確立した人ということで、
ショーロの歴史にいかに重要な役割を果たしたかが、わかりますよね。

イリニウは、ショーロ第1世代の代表的な音楽家、
アナクレット・デ・メデイロスの楽団バンダ・ド・コルポ・ジ・ボンベイロス創設の
1896年来からのメンバーで、副指揮者を務めていました。
バンダ・ド・コルポ・ジ・ボンベイロスが大編成のブラスバンドだったのに対し、
ブラスバンドを小規模にして、コントラポントを取り入れたイリニウの楽団演奏は、
自由闊達な即興を可能にしたのでした。

当時のイリニウのグループ、ショーロ・カリオカとグルーポ・カリオカの録音は、
古典ショーロの15枚組ボックス・セットでCD化され、ディスク2で聴くことができます。
1910年から1916年の録音なので、音質は正直厳しいものがあるんですけれど、
当時の演奏を再現した今回のアルバムは、
ショーロ神話時代に開発されたコントラポントをみずみずしく蘇らせています。

編成も、オフィクレイド、コルネット、フルート、
ギター、カヴァキーニョ、パンデイロと、当時のまま。
本作で演奏されている“Daynéia” “Albertina” のオリジナル録音が
ディスク2に収録されているので聞き比べてみると、
オリジナルを忠実に演奏していることがよくわかります。

今のブラジルでは、オフィクレイドを吹く人がいなくなり、
田中勝則さんがプロデュースした『ショーロ歴史物語』でも、
イリニウの曲はファゴットで代用されていましたが、
オフィクレイドを楽器店で偶然発見したトロンボーン奏者のエヴェルソン・モライスの存在が、
この企画作に結び付いたようです。
ちなみに、コルネットのアキレス・モライスとは兄弟で、
アキレスはアミルトン・ジ・オランダの去年のガフェイラ・アルバムに参加していましたね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-09-11

プロデュースは、ショーロ・ギタリストのマウリシオ・カリーリョ。
こういう古典ショーロに目配りができる人といえば、この人を置いてほかにいません。
ピシンギーニャやシキーニャ・ゴンザレスあたりをカヴァーする人はいても、
イリニウ・ジ・アルメイダやアナクレット・デ・メデイロスにスポットをあてる見識のある人は、
マウリシオやエンリッキくらいのものでしょう。
最初に「20年に1度級」といったのも、
アナクレットのカヴァー集が99年にクアルッピから出た以来と感じたからです。

そして、再現演奏といいながら、それが歴史のお勉強的なおさらいで終わるのではなく、
フレッシュなサウンドに満ち溢れているのだから、心躍らせずにはおれません。
100年前の音楽が、これほどまでにみずみずしく響くんですから、マイっちゃいますよ。
こういう演奏を聴いていると、音楽に進歩なんていらないと、思わず言いたくなります。
朗らかで、軽やかで、優和で、キューーーーーーーート♡
キューバのピケーテ・ティピコ・クバーノにカンゲキした方にも、ぜひ。

Everson Moraes, Aquiles Moraes, Leonardo Miranda, Iuri Bittar, Lucas Oliveira, Marcus Thadeu
"IRINEU DE ALMEIDA E O OFICLEIDE - 100 ANOS DEPOIS" Biscoito Fino BF390-2 (2016)
Choro Carioca, Grupo Carioca
"CHORO CARIOCA E GRUPO CARIOCA : MEMÓRIAS MUSICAIS [2]" Biscoito Fino BF601-2
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