20年に1度級の、スゴいショーロ・アルバムが出ましたよ。
ショーロ・ファンだけが楽しむんじゃ、もったいないくらいの内容で、
管楽器好きの音楽ファンにぜひオススメしたい、素晴らしい企画作です。
それが、ショーロ第2世代の代表的な音楽家である
トロンボーン/オフィクレイド奏者、イリニウ・ジ・アルメイダ(1863-1914)の曲集です。
イリニウ・ジ・アルメイダの名がよく知られているのは、
ピシンギーニャの最初の先生だったからですね。
イリニウは、ピシンギーニャのお父さんが大家をしていた下宿に暮らしていて、
音楽好きだった大家の息子にチューバと作曲を教え、
仲間のショローンたちに引き合わせるなど、ピシンギーニャをかわいがっていたようです。
1911年には、わずか14歳のピシンギーニャが、イリニウ率いるショーロ・カリオカの一員として、
“São João Debaixo D’água” の録音を残しています。
でも、この人の真価は、別なところにあります。
ショーロにはじめてコントラポント(対旋律)の演奏を導入したのが、イリニウなんです。
いわばイリニウは、ショーロの演奏技法の基礎を確立した人ということで、
ショーロの歴史にいかに重要な役割を果たしたかが、わかりますよね。
イリニウは、ショーロ第1世代の代表的な音楽家、
アナクレット・デ・メデイロスの楽団バンダ・ド・コルポ・ジ・ボンベイロス創設の
1896年来からのメンバーで、副指揮者を務めていました。
バンダ・ド・コルポ・ジ・ボンベイロスが大編成のブラスバンドだったのに対し、
ブラスバンドを小規模にして、コントラポントを取り入れたイリニウの楽団演奏は、
自由闊達な即興を可能にしたのでした。
当時のイリニウのグループ、ショーロ・カリオカとグルーポ・カリオカの録音は、
古典ショーロの15枚組ボックス・セットでCD化され、ディスク2で聴くことができます。
1910年から1916年の録音なので、音質は正直厳しいものがあるんですけれど、
当時の演奏を再現した今回のアルバムは、
ショーロ神話時代に開発されたコントラポントをみずみずしく蘇らせています。
編成も、オフィクレイド、コルネット、フルート、
ギター、カヴァキーニョ、パンデイロと、当時のまま。
本作で演奏されている“Daynéia” “Albertina” のオリジナル録音が
ディスク2に収録されているので聞き比べてみると、
オリジナルを忠実に演奏していることがよくわかります。
今のブラジルでは、オフィクレイドを吹く人がいなくなり、
田中勝則さんがプロデュースした『ショーロ歴史物語』でも、
イリニウの曲はファゴットで代用されていましたが、
オフィクレイドを楽器店で偶然発見したトロンボーン奏者のエヴェルソン・モライスの存在が、
この企画作に結び付いたようです。
ちなみに、コルネットのアキレス・モライスとは兄弟で、
アキレスはアミルトン・ジ・オランダの去年のガフェイラ・アルバムに参加していましたね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-09-11
プロデュースは、ショーロ・ギタリストのマウリシオ・カリーリョ。
こういう古典ショーロに目配りができる人といえば、この人を置いてほかにいません。
ピシンギーニャやシキーニャ・ゴンザレスあたりをカヴァーする人はいても、
イリニウ・ジ・アルメイダやアナクレット・デ・メデイロスにスポットをあてる見識のある人は、
マウリシオやエンリッキくらいのものでしょう。
最初に「20年に1度級」といったのも、
アナクレットのカヴァー集が99年にクアルッピから出た以来と感じたからです。
そして、再現演奏といいながら、それが歴史のお勉強的なおさらいで終わるのではなく、
フレッシュなサウンドに満ち溢れているのだから、心躍らせずにはおれません。
100年前の音楽が、これほどまでにみずみずしく響くんですから、マイっちゃいますよ。
こういう演奏を聴いていると、音楽に進歩なんていらないと、思わず言いたくなります。
朗らかで、軽やかで、優和で、キューーーーーーーート♡
キューバのピケーテ・ティピコ・クバーノにカンゲキした方にも、ぜひ。
Everson Moraes, Aquiles Moraes, Leonardo Miranda, Iuri Bittar, Lucas Oliveira, Marcus Thadeu
"IRINEU DE ALMEIDA E O OFICLEIDE - 100 ANOS DEPOIS" Biscoito Fino BF390-2 (2016)
Choro Carioca, Grupo Carioca
"CHORO CARIOCA E GRUPO CARIOCA : MEMÓRIAS MUSICAIS [2]" Biscoito Fino BF601-2