エチオピアン・サックスの帝王ことゲタチュウ・メクリヤが、
4月4日に亡くなったとの第一報が飛び込んできました。享年81。
49年のプロ・デビュー以来、68年という長いキャリアを、
サックス1本でまっとうした人生でした。
晩年となった04年から、オランダのポスト・パンク・バンド、ジ・エックスとともに活動し、
欧米の若いロック・ファンから絶大な人気を博したことは、
音楽人生の有終の美を飾ったといえるのではないでしょか。
ここ数年は体調を崩し、ツアーから遠ざかっていたようで、
日本に来てもらえなかったのが、なんとも残念でなりません。
ゲタチュウより8歳年上のビッグ・ジェイ・マクニーリーが去年再来日して、
88歳という年齢を感じさせない、驚異のホンカーぶりを聞かせていただけに、
ゲタチュウの生のプレイを体験できなかったのは、悔やまれます。
55年、ハタチの時にハイレ・セラシエ1世皇帝劇場オーケストラの一員となり、
65年、ポリス・オーケストラへ移り、エチオピア音楽の黄金時代に、
大勢のトップ・シンガーの歌伴を務めるとともに、自身のソロ演奏を残したことは、
エチオピーク・シリーズのアルバムを愛聴するファンならよく知るところですけれど、
ゲタチュウはけっして、ジャズ・ミュージシャンではありませんでした。
このことは、ぜひ強調しておきたいんですけれど、
ゲタチュウが生涯演奏したのは、伝統的なエチオピア音楽でした。
いくらゲタチュウのサックスが、アルバート・アイラーの咆哮を想起させようと、
彼は伝統的なエチオピア音楽のレパートリーを、彼のやり方で演奏していたにすぎません。
ましてやゲタチュウの演奏を、エチオ・ジャズと混同するようでは困ります。
「エチオ・ジャズ」は、あくまでもムラトゥ・アスタトゥケがクリエイトした音楽であって、
ジャズぽく聞こえるエチオピアの音楽を、
なんでもかんでも「エチオ・ジャズ」と括るのは、誤解のもとです。
ゲタチュウのプレイが、ジャズ・ファンを驚愕させるほどのクオリティを持っていたからといっても、
それを拡大解釈して、ゲタチュウがジャズを演奏していたと捉えるのは、間違いです。
ジャズの演奏家か否かは、ミュージシャンのアイデンティティとして大事なことなので、
これを機に、ゲタチュウがエチオピアン・ポップスの音楽家であったことについて、
あらためて確認しておきたいと思うのでありました。
Gétatchèw Mèkurya "ÉTHIOPIQUES 14 : NEGUS OF ETHIOPIAN SAX" Buda Musique 82256-2
Getatchew Mekuria & The EX & Friends "Y’ANBESSAW TEZETA" Terp AS21/22 (2012)