見開きジャケ内と裏ジャケに載る、
子羊を肩車したサリー・アン・モーガンの写真が、♡♡♡。
子羊の微笑んでいるような表情と、柔らかな光に包まれた写真が、
中身の音楽をすべて説明しているようじゃないですか。
写真のロケーションは、パートナーのギタリスト、アンドリュー・ジンと
彼女が所有するノース・カロライナ州西部にある4エイカーの牧場なのでしょうね。
(あまりに愛らしいので、写真を無断転載)
サリー・アン・モーガンは、アパラチアの伝統音楽を探求する
ブラック・トゥイグ・ピッカーズでフィドルを弾き、
サラ・ルイーズとコンビを組むフォーク・デュオ、ハウス・アンド・ランドで、
歌手とマルチ奏者としての才を発揮してきた人。
ハウス・アンド・ランドの2作を愛聴していただけに、
待望のソロ・デビュー作です。
シャーリー・コリンズが歌ったバラッド‘Polly On The Shore’ で始まる本作は、
アパラチア民謡ばかりでなく英国フォークの影響も明らかにしていて、
アルバム・ラストは、ニック・ジョーンズのヴァージョンでよく知られる
‘Annachie Gordon’ を取り上げています。
アパラチアン・フォークのフォームを拡張する試みは、
ハウス・アンド・ランドと同じ志向といえそうですけれど、
宇宙に飛んでいきそうな実験的な試みもいとわないサラ・ルイーズに比べて、
サリーのアプローチはもっと実直で、
アパラチアの古謡と現代のミニマルな実験を、無理なく結びつけています。
さりげないアレンジのなかに、ルーツ・ミュージックを新しくデザインし直す
野心的な試みもしていて、‘Elemwood Meditation’ は、まさにその好例。
サリーがピアノとフィドルを演奏したインスト曲で、
フィドルはさらに多重録音して、三重奏となっています。
静寂なサウンドスケープのなかで、ピアノがぽつんぽつんと音を置くように弾かれ、
フィドルがゆったりとしたボウイングで、メロディを奏でます。
絡むようで絡まないミニマルなピアノとフィドルの内省的な演奏は、
異なるテンポで明滅する灯りを見るような、静謐なアンビエントです。
こんな演奏があることで、アパラチアン・フォークに新たな文脈を与え、
伝統の更新が行われているのを実感できますね。
ドラムスが太鼓のような役割を果たし、
エレクトリック・ギター一本の弾き語り‘Wagoner's Lad’ が、
とても奥行きのある演唱となっているのも、
サリーが演じるアパラチアン・フォークのスペクトルを表すかのようです。
一方、伝統音楽家としての確かな実力も、
‘Polly On The Shore’ でのクロウハンマー・スタイルの歌ごころ溢れるバンジョーや、
ケンタッキーのオールド・タイム・フィドラー、クライド・ダヴェンポートに範をとった
‘Sugar in the Gourd’ のドローンをたっぷりと響かせたフィドルの腕前に、
十分発揮されていて、充実のソロ・デビュー作となっています。
Sally Anne Morgan "THREAD" Thrill Jockey THRILL528 (2020)
House and Land "HOUSE AND LAND" Thrill Jockey THRILL444 (2017)
House and Land "ACROSS THE FIELD" Thrill Jockey THRILL486 (2019)