おぅ、ついにこのレコードがリイシューされたかぁ。
南ア・ジャズに関心のない人でも、ジャケット・カヴァー名作として知る人の多い、
ザ・ヘシュー・ベシュー・グループの70年作です。
『アビー・ロード』のジャケットをパロディー化したレコードは、
世界津々浦々に山ほどあれど、このレコードほど秀逸なものはないでしょう。
荒れた未舗装の道路には、もちろん横断歩道のペイントがあるはずもなく、
貧しい田舎町の通りを渡る5人のメンバーは、
ポージングを決めるのに手間取ったからか、遠巻きに見るヤジウマたちが、
何をしているんだ?と不思議そうに眺めている姿も映り込んでしまっています。
モノクロームで撮られたこの写真は、
アビー・ロードの整然とした風景との違いをあからさまに示すことで、
アーミテージ・ロードが置かれている社会状況のイメージを増幅させます。
もちろんそのねらいが、アパルトヘイトへの批判であることは言うまでもないでしょう。
世界にあまたあるパロディー・ジャケットが、しょせん悪ふざけにすぎないなか、
本作のジャケットが飛びぬけた強度を持つのは、そのメッセージ性ゆえです。
タイトルのアーミテージ・ロードが、じっさいの写真のロケーションかどうかは不明ですが、
アーミテージ・ロードは、グループの作編曲を担当したギタリスト、
シリル・マグバネのオーランドにある生家の住所で、
ポリオに罹患して車椅子に乗っているのがシリルです。
ザ・ヘシュー・ベシュー・グループは、ジョハネスバーグで演奏活動していた
ダーバン出身のアルト・サックス奏者ヘンリー・シトルが、
弟のテナー奏者スタンリー・シトルに、ギタリストのシリル・マグバネ、
ドラマーのネルソン・マグワザ、ベーシストのアーネスト・モスルを集めて
69年に結成したジャズ・クインテットです。
アーネスト・モスルがプレトリア出身のほかは、全員ダーバンの出身者ですね。
演奏は典型的なハードバップで、
南ア・ジャズ独特のマラービやサックス・ジャイヴの匂いをかぎ取ることはできません。
北米ジャズのコピーとはいえ、抑圧されたアパルトヘイト下で、
全員20歳代という若さを爆発させた粗削りな魅力は、今なお色褪せていませんね。
「ヘシュー・ベシュー」の意、「力づくで行く」プレイそのものです。
コルトレーン直系のスタンリーのテナーに、
アヴァンギャルドな要素もあるヘンリーのアルト、
そしてケニー・バレル譲りのオーソドックスなスタイルを聞かせるシリルのギターと、
この時代独特の熱気を伝えていて、エモいハードバップを堪能できます。
このグループは、本作1枚を残して消滅してしまいますが、ヘンリーとスタンリーは、
71年4月に開催されるアルコ・ベスト・バンド・コンペティションに
出場のため新たなバンドを結成します。
このバンドが、のちの南ア・ソウル・ジャズのトップ・バンドとなるザ・ドライヴで、
メンバーにはシトル三兄弟の残り一人のトランペッター、
ダニーを加え、ピアニストにはベキ・ムセレクも在籍していました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2011-01-17
ザ・ドライヴはアルコのコンテストで見事優勝し、
南部アフリカをツアーして成功を収めますが、
77年5月の交通事故によってヘンリーは死亡、残りのメンバーもあいついで亡くなり、
ベースのアーネスト・モスルのみが生き残りとなります。
アーネストはのちに南アを離れ、80年代を通じて
クリス・マクレガーのブラザーフッド・オヴ・ブレスで活動しますが、
現在は南アに帰国しているようですね。
う~ん、ザ・ドライヴもリイシューしてくれませんかねえ。
バブルガムのつまんないアルバムなんか出してないで、
まだ山ほど眠っておる南アのお宝を、掘り出してくれよと言いたくなります。
The Heshoo Beshoo Group "ARMITAGE ROAD" We Are Busy Bodies WABB063CD (1970)