トーゴ、エヴェ人の正装であるケンテをまとった一族の記念写真は、
アフリカン・テキスタイル好きには、たまんないジャケットですね。
中央の椅子に座るのが、本アルバムの主役であるイロム・ヴィンスの息子で、
イロム本人は表ジャケットには不在で、裏に写っています。
ガーナのアシャンティの王族が身に着けるようになって有名になったケンテは、
黄・赤・青などの原色使いが特徴ですけれど、
ここでは緑を基調とするシブい色合いが、趣のある風合いを醸し出しています。
いやあ、それにしてもいい写真だなあ。いつまでも眺めていられますねえ。
トーゴ人ラッパー、イロム・ヴィンスの15年の前作“INDIGO” は、
期待ハズレだった苦い思い出が残っているんですけれど、
新作ジャケットに矢もたまらず飛びついてみたら、
前作の不満を見事に解消していて、快哉を叫んじゃいました。
母親の古い写真をジャケットに飾った前作“INDIGO” は、
アフリカの独立運動家で初代大統領を務めたガーナのンクルマと
ギネア=ビサウのアミルカル・カブラルに、ブラックパンサー党のジョージ・ジャクソンや、
ニーナ・シモンのスピーチをサンプリングするなど、
パン=アフリカニズムへの傾倒を全面に打ち出した野心作でした。
しかし、それほどアフリカの民族意識を標榜しながら、
ラップはフランス語、トラックメイクにもアフリカ色がまるでないという、
チグハグな音楽性が大いなる不満だったのです。
‘Vodou Sakpata’ なんて期待させるようなタイトルの曲も、
サクパタのリズムが聞けるわけでなし、ヴードゥーの音楽とも関連なしで、
なんでこのタイトルなの?といぶかしく思ったものです。
ま、そんなわけで、かなりガッカリな出来だったんですが、
新作はたっぷりとアフリカを刻印したトラックが詰まっています。
冒頭の‘Egungun’ から、ベルがステデイなリズムを鳴らして、
アダハを思わせる古いブラスバンドがフィーチャーされて、おおっ!
時折、遠景で角笛がうっすらと鳴らされたり、
ギネア沿岸由来とおぼしき古いメロディが顔をのぞかせたりして、
耳は引き付けられっぱなし。
前作と同じホーン奏者を使いながら、
前作にはまったくなかったアフリカ由来のサウンドを作り出しています。
ヴードゥーのメロディを歌うコーラスとベルのビートを取り入れたタイトル・トラックでは、
フリーキーなサックス・ソロを最後にフィーチャーしたり、
トーキング・ドラムとエヴェ語でかけあう短いインタールードの‘Gbessa’ から、
語りのかけあいがフロウに変わる‘Poings D'interrogation’ へつなげるなど、
どのトラックも精巧に組み立てられていて、感心させられます。
親指ピアノのサンプリングを効果的に使った‘By Enemies Necessary’、
コラとバラフォンをバックに、幼い息子と対話した‘Ubuntu’、
‘Le Sang de la Bougie’ では、トニー・アレンのドラミングをループさせたかのよう。
ハイライトは、トーゴリーズ・ファンクの往年の名シンガーで、
「ロメのJB」と称されたロジャー・ダマウザンをフィーチャーし、
ダンスバンド・ハイライフを歌わせた‘Agbé Favi’ かな。
アフロ・ファンク・シンガーの大ヴェテラン、ダマウザンに、
こんなクラシック・スタイルのハイライフを歌わせるとは、思い切った企画ですね。
イロム・ヴィンスは、アスラフォ・レコードを主宰するほか、
服飾ブランドのアスラフォバウを立ち上げ、
ケンテのデザインを取り入れたモダンなスタイルも提案しているんですね。
ほかにも、フリー・マガジンを出版するなど、多方面にわたる活動をしていて、
トーゴの注目すべきアクティヴィストです。
Elom 20ce "AMEWUGA" Asrafo no number (2020)
Elom 20ce "INDIGO" Asrafo HC46 (2015)