この冬は寒かったですねえ。
去年が暖冬だったので、なおさら厳しく感じましたけれど、
東北や日本海側に暮らす方々にとって、
雪にずいぶん苦しめられた冬だったんじゃないでしょうか。
寒い冬の夜は、ファドを聴くのが定番なんですけれど、
今年はひさしぶりにアマリア・ロドリゲスをずいぶん聴き返しました。
コロナ禍で欝っぽくなる気分を吹き飛ばしたいという心理が働くせいか、
熱量の高い音楽を求めるようになるんですよね。
フリー・ジャズをやたらと聴いているのも、そのせいか。
今年はアマリア・ロドリゲスのあとでも聴ける、いいアルバムを見つけたんです。
アマリアをじっくり聴きこんでしまうと、お腹いっぱいになってしまって、
そのあと別のファド歌手を聴く気に、なかなかならないんですが、
アルディーナ・ドゥアルテの新作は違いましたよ。
伝統ファドにこだわり続けて歌ってきたアルディーナ・ドゥアルテが、
名ファディスタたちの名唱を新しい解釈でカヴァーした意欲作。
アマリア・ロドリゲス、マリア・テレーザ・デ・ノローニャ、ルシーリア・ド・カルモ、
カルロス・ド・カルモ、エルミーニア・シルヴァ、マリア・ダ・フェ、トニー・デ・マトス、
ベアトリス・ダ・コンセイソーン、ジョアン・フェレイラ=ローザといった、
錚々たるファディスタの古典的ファドにチャレンジしています。
これだけのレパートリーを前にしては、気負うなというのが無理というものでしょう。
張り詰めた緊張感とともに、真摯に自分のファドにしようという
アルディーナの強い意志が、びんびんと聴き手に伝わってきます。
凛とした歌声には、アルディーナが四半世紀にわたってファドに取り組んできた、
頑固なまでの純粋さが滲みます。
ちなみにジャケット写真は、二十代の時の写真だそうです。
マジメな人なんだろうなあと想像します。そして、努力家でもあるに違いありません。
歌声を聴けばわかりますよ。ぼくはこういう音楽家がとても好きです。
04年にようやく、37歳にして遅すぎるデビュー作を出した人ですからね。
そのデビュー作以来、ギターとギターラのみの伴奏という古典ファドのスタイルを
守り通しているところに、この人の良い意味での頑固さがよく表れています。
ラストの、マリア・テレーザ・デ・ノローニャの‘Rosa Enjeitada’ には感動しました。
ドラマティックに歌ったノローニャのスタイルとはがらりと変え、
ぐっとテンポを落とし、つぶやくように歌っているんです。
まったく異なるアプローチで、この曲に秘められた哀感を押し出した新解釈も見事なら、
そのさりげない歌唱にも、しっかりとファドの定型がしっかりと押さえられているところが、
拍手もの。新世代ファド歌手と呼ばれる多くの歌手は、これができないんだよなあ。
この曲のみ、アントニオ・ザンブージョがゲストでデュエットしていて、
こういう楽想にザンブージョのつぶやきヴォーカルはピタリとはまりますね。
個人的にあまりザンブージョは買っていませんが、これは絶妙な起用でした。
Aldina Duarte ""ROUBADOS"" Sony Music 19075979892 (2019)
Aldina Duarte "APENAS O AMOR" EMI 7243 5 98283 2 9 (2004)