謎ジャケですね。
ギリシャ歌謡なんすけど、クラフトワーク?みたいなジャケットに、戸惑うばかり。
じっさい中身を聴いてみなかったら、とても出会うことはなかったろうアルバムです。
女性歌手のイウリア・カラパタキと、
ブズーキ奏者で作曲家のフォティス・シオタスの共同名義作です。
冒頭、13名のストリングス・アンサンブルによる流麗なインスト・ナンバーに始まり、
その麗しいまでに優美なサウンドに、ココロ射抜かれてしまいました。
歌と伴奏を一発録りしたという、いまどき奇特なアルバムで、
ヴァイオリン10人にチェロの3人が、狭いブースに詰め込まれて
レコーディングしている風景が、ライナーで拝むことができます。
う~ん、これがなんであのクラフトワーク・ジャケになるんでしょうね!?
完全アクースティック編成の生音伴奏にのせて歌うイウリアのヴォーカルが、
見事なまでのレンベーティカ・マナーで、ゾクゾクしてしまいます。
喉を良く開いた発声で、力量のある歌声を聞かせながら、
どこかそっけない歌いぶりは、ギリシャ歌謡が持つ粋を、
しっかりと受け継いでいるじゃないですか。
今日びの女性歌手にはみられなくなった「古い声」の持ち主で、
全世界的に蔓延するアイドル声にうんざりしているオジサンは、
ずいきの涙を流しております。
イウリアは、カテリーナ・ツィリドゥのバックをつとめる新世代レベーティカ・アンサブル、
コンパニアの一員でもあり、レンベーティカ・マナーが堂に入っているのも、むべなるかな。
完全にぼく好みの女性歌手であります。
一方、フォティス・シオタスの方も、多くのライカ・シンガーに曲提供をするほか、
サウンドトラックなども手掛ける気鋭の若手作曲家で、
オーソドックスな作風のなかに、現代性もしっかりと垣間見せる才能のある人です。
本作は、全曲ソドリス・ゴニスが書いた歌詞にフォティスが曲をつけ、
端正な伝統寄りのライカを聞かせています。
ゲストがまた豪勢で、ソクラテス・マラマス、
ディミトラ・ガラーニ、ヤニス・ディオニシウが参加。
なかでも格別なのが、5曲目のジャジーな‘Proseyhi’。
ディミトラ・ガラーニのつぶやくようなヴォーカルが、胸に沁みますねえ。
また、アレンジもピリ辛で、9曲目の‘O Perittos O Anthropos’ の終盤で展開する、
マノリス・パポスのブズーキと、チェロとヴァイオリン・アンサンブルが絡み合う
前衛的なアレンジは、聴きものです。
イウリア・カラパタキ、今後要注目であることは、原田さんに同感であります。
Ioulia Karapataki & Fotis Siotas "TA DEUTERA" Ogdoo Music Group no number (2019)